働き方改革という言葉が出て数年が経過したが、長時間労働問題への対応は今も変わらず大きな課題となり横たわっている。もちろん、各社ともに手をこまねいているわけではなく、さまざまな工夫をしているものの、中々うまく進められていない企業が多いのが実情だ。
そのような中、新型コロナウイルス感染症の流行で一気に普及したリモートワークは、効率性をもたらした半面、新たな「長時間労働問題」を生み、状況をより複雑にしている。
事業、業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組み、ITによる業務の高度化、効率化が確実に進む中、なぜ長時間労働問題は一向に解消されないのか。本連載では、この問題にメスを入れるためのIT活用の在り方について、5回の連載を通じて紹介していく。
ITの進化に働き方が追い付けない
それまでごく一部の人が行っていたリモートワークは、コロナ禍を経て一気に市民権を得た。
リモートワークは「無駄な通勤時間がなくなる」などの理由を筆頭に、かなり好意的に受け入れられたものの、時間の経過とともに、最近ではネガティブな評価も目につくようになってきた。「生産性が落ちる」「コミュニケーション機会が失われる」「長時間労働になる」の3点は、リモートワークの3大ネガティブ評価と言えるだろう。
「Zoom」や「Microsoft Teams」といったコミュニケーションツールに代表される各種ITツールは、リモートワークに必要な「時間や場所にとらわれない働き方」を一気に実現させた。
しかし、ITツールが急速に進化する一方で、使う側の意識、働き方のアップデートは特に行われていないのではないか。アップデートしていない「古い働き方」を、そのまま新しいITツールで構築されたリモートワーク環境に乗せてしまうことで、チグハグな状態になっている様子がよく見受けられる。リモートワークの3大ネガティブ評価のうち、長時間労働はこのチグハグさから生み出されているのでないかと筆者は考えている。
例を見てみよう。これまでは多くの会議に招集がかかっても、「移動中のため」「別件があるため」というように断ることができた。しかしウェブ会議が主体になると、シームレスに会議予定を入れ続けることも、少しだけ会議に顔を出すことも可能になり、中には複数のデバイスで、同時に異なる会議に参加する猛者も現れた。その結果、朝から晩までウェブ会議に参加し続けている人を、皆さんもよく見かけるようになったのではないだろうか。
これは健全な状態なのだろうか。肉体的、精神的な疲労感は確実に増すだろうし、頑張っているほど生産性が高いようにも見えない。ITツールの便利さが、これまでの制約条件を取り払うことは大いに良いことだ。しかし、それが、単に安全装置を外して暴走する列車のようになってしまっては意味がない。そうならないためには、運転士の運転技術を上げる必要があるのは当然だろう。