英国の大手銀行HSBCは、音声認識技術で電話口の顧客を識別する技術によって、過去1年間で約2億4900万ポンド(約380億円)の顧客資金を詐欺師の手から守った。
この「Voice ID」と呼ばれる音声システムは、2016年にテレホンバンキングによる銀行取引のセキュリティを改善するために導入されたものだ。その結果は、これまでのところは素晴らしいものに見える。2020年に試みられたテレホンバンキングにおける詐欺の件数が、前年比で50%減少したほどだ。
HSBCによれば、2016年の導入以降、Voice IDのシステムによって4万3000件以上の電話による詐欺行為が特定され、9億8100万ポンド(約1500億円)の顧客資金が悪質なハッカーの手から守られた。
HSBC UKの顧客サービス責任者であるKerri-Anne Mills氏は、「詐欺師の手口は巧妙であり、先手を打ち続けるのは常に大変だが、この技術は有望だ」と話す。「報告されているテレホンバンキング詐欺の報告件数は、前年比で50%減少している」
HSBCの顧客は、テレホンバンキングで残高照会や支払い、送金などのさまざまな取り扱いに注意を要するサービスを利用できる。
Voice IDは、無作為な数字からなる複雑なセキュリティナンバーを読み上げたり、覚えておくのが大変なセキュリティの質問に答えたりといった本人確認の代わりになる認証手段として導入された。
顧客がこのサービスを利用するには声紋を登録する必要がある。登録したユーザーがサービスを利用するために銀行に電話すると、最初に短いフレーズを話すように求められ、Voice IDがその音声を分析して最初の録音と比較し、電話口にいるのが本人かどうかを確認する。
HSBCは、この技術を利用すれば手続きが便利になるばかりでなく、これまでよりも安全になると主張している。ハッカーは、個人のコードやパスワードを盗んだり推測したりしてセキュリティチェックをすり抜けることがあるが、誰かの声を模倣するのはそれよりもずっと難しい。
HSBCによれば、Voice IDは、話し手が話すスピードや、言葉を強調するときのくせなどを含む、100種類以上の行動面や物理面での音声の特徴をチェックすることで顧客の本人確認を行っているという。同銀行は、この技術の精度は高く、話し手が誰かを装っていたり、録音を再生したりしていればそれを見破れる一方で、顧客が風邪をひいていたり、喉を痛めていたりしても正しく本人確認を行えると述べている。
Voice IDに登録するHSBCの顧客は増えており、今では280万人のユーザーに利用されている。Mils氏によれば、最近では毎週1万4000人の顧客がVoice IDに登録しているという。
これは、新型コロナウイルスの流行で急速にサービスのデジタル化が進んでいることも手伝って、顧客が物理的に銀行に行かずに自分の資産を管理できる新たなチャネルを求めるようになっているためだ。