古参のアナリティクスベンダーといえばSAS Instituteだろう。SAS言語で現在の地位を築いたが、クラウド、そして人工知能(AI)時代に向けて戦略を加速している。同社が5月19~20日にオンライン開催した年次イベント「SAS Global Forum 2021」で、最高技術責任者(CTO)兼エグゼクティブバイスプレジデントのBryan Harris氏に、最新動向について話を聞いた。
SAS Institute CTO兼エグゼクティブバイスプレジデントのBryan Harris氏
SAS Global Forum 2021での最大のニュースが、AIプラットフォーム「SAS Viya」におけるクラウドパートナーの拡大だ。SAS Viyaは、AIだけでなくアナリティクスデータ管理機能も持ち、Pythonも利用できる重要な製品だ。今回は、2020年に戦略的提携の下で発表したMicrosoft Azureのサポートに加え、Amazon Web Services(AWS)やGoogle Cloudでも利用できるようになる。
2020年のMicrosoftとの提携ではAzureが「優先クラウド」として発表されたが、AWSとGoogle Cloudもサポートすることで「優先」という地位はどうなるのか――。Harris氏は、「Microsoftが優先クラウドであることに変わりはない」と言い切る。
「SASの顧客の中にはAWS、Google Cloudを利用するところもある。3大クラウドで80~90%をカバーできることになった。だが、Microsoftが優先的なクラウドであることには変わりない」とHarris氏。Azure向けには深いレベルでの製品のチューニングを進めており、顧客が最適化においてクラウドを決めていない場合は、Azureを勧めるという。
SAS自身も自社SaaSである「SAS Cloud」をAzure上で運用しており、今後は業界ソリューションの取り組みでも協業するという。また、2社は市場戦略も共同で進めるなど「提携の範囲も広い」(Harris氏)という。なお、SAS Global Forumの基調講演では、SASの創業者でありCEO(最高経営責任者)を務めるJim Goodnight氏とMicrosoft CEOのSatya Nadella氏が対談するなど、蜜月ぶりをアピールしている。
SASは合わせて、Red Hatとの提携で「OpenShift」をサポートすることも発表した。これを通じてハイブリッドクラウドへのニーズにも応える。Harris氏は、「規制が厳しい業界の企業がOpenShiftを使ってハイブリッド環境を構築しているが、ここに訴求できる」とし、「米国の外で強い需要がある」とも付け加えた。SAS自身もコンテナーのベースイメージをOpenShiftで構築するなど、Red Hatと特別な関係にあるという。
同社でのViyaのクラウド戦略強化から1年、日本顧客の受け入れについては、今回のAWSとの提携が大きな加速要因になると見る。「(日本は)AWSの需要が強い。以前からSASの技術はAWS上で動いているが、クラウドネイティブではなかった。今後は、日本の顧客にViyaをクラウドネイティブに実装してもらうことが課題の1つになる」と、Harris氏は述べる。
SASはクラウドの時代に向けて、クラウドネイティブな実装を重要な目標にしている。「シンプルに使えるようにするためには、ソリューションを同じプラットフォームに統合する必要がある。今後1~2年で、全てのソリューションポートフォリオをクラウドネイティブのViyaにしていく。これにより、クラウドへの移行を検討する顧客はどのクラウドでも利用できる」(Harris氏)
クラウドでは、2020年末に買収したBoemskaの技術も重要な役割を果たす。買収についてHarris氏は3つの狙いを挙げた。
1つ目は、アナリティクスワークロードの詳細なログ情報と性能解析情報を可視化する「EMS」だ。「SASソフトウェアにモニタリングとオブザーバビリティをもたらしてくれる」とし、今後これを差別化につなげるという。
2つ目は最適化技術。ESMを使うことで、モデルが使わないコードを削減でき、モデルに必要なランタイムをGB単位から200MB程度まで削減可能とする。これにより、クラウドのコスト効率を改善できるという。
3つ目は「AppFactory」で、SAS Viyaと組み合わせて簡単にアプリケーションを構築できるノーコード/ローコード技術になる。「今後この技術を活用してクラウド、オンプレミスとさまざまなところにあるビジネスプロセスにモデルを簡単に実装できるようにする」とHarris氏は述べた。
AIの将来であり、課題ともされる「コンポジットAI(さまざまなAI技術を組み合わせて結果を導き出す)」については、「SASは以前から取り組んできた。だが10年ほど前ならロジスティック回帰、線形回帰、自然言語処理ぐらいだったが、画像、動画、音声など性質の異なるデータが入ってきており、これら全てを活用して最善の意思決定につなげなければならない」とHarris氏は説明する。
このような状況に対応するために、同社が進めているインテリジェントな意思決定フローの定義などの機能が重要になっていくとし、Harris氏は「SASはアナリティクスを機能させるという点で長い実績を持つ。異なるテクニックを使ったAIも現実のものにしていく」と語った。