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「Zoomへの信頼を取り戻す」--ZVC Japanの佐賀代表に聞く

國谷武史 (編集部)

2021-06-09 06:00

 世界的なコロナ禍で、オンラインコミュニケーションを身近な存在にしたのがZoomだろう。ビジネスでも急成長を続ける同社だが、日本法人のZVC Japanカントリーゼネラルマネージャーを務める佐賀文宣氏は、2021年の重要テーマにZoomに対する信頼の醸成を掲げている。ビジネスでの取り組みや展望などを佐賀氏に尋ねた。

ZVC Japan カントリーゼネラルマネージャーの佐賀文宣氏
ZVC Japan カントリーゼネラルマネージャーの佐賀文宣氏

コミュニケーションを表裏で支える

 米国時間6月1日にZoomが発表した2022会計年度第1四半期決算(4月30日締め)は、売上高が前年同期比191%増の9億5620万ドル、10ライセンス以上の顧客数が87%増の約49万7000社に達し、直近12カ月で売上高10万ドル超に寄与した顧客も約160%増の1999社となった。

 佐賀氏によれば、日本市場もグローバルとほぼ同様の好業績を達成しているといい、2020年はデンソーが4万5000人規模で全社的な導入を行うなど、大企業ユーザーでの導入拡大が進んだ。ただ、「売上高トップ500社の85%にZoomを採用いただいているが、全社規模での導入はそのうちの15%。まだまだ部門単位の導入が多く、全社導入につなげたい」(佐賀氏)という。

 製品面では、5月に大規模なオンラインカンファレンスの開催に対応する「Zoom Events」を発表し、1つのプラットフォームで1対1の通話から大人数のオンラインコミュニケーションまでをサポートするまでになった。一方で、「メールアドレスを持たない人々にリモートコミュニケーションを提供する」との方針のもと、現場業務や遠隔医療、オンライン教育といったシーンでのZoomの利用拡大にもつなげた。

 オフィスワーカーのようなユーザーにとってZoomは打ち合わせや会議などの「オンラインコミュニケーションを開始する入口」(佐賀氏)に当たる。方や、「例えば、遠隔医療ならカルテが入口になり、そのシステムに組み込まれたZoomがコミュニケーションをサポートする」(同)とし、佐賀氏は、Zoomがさまざまなコミュニケーションを表と裏の両面で支える存在になっていることを強調する。

2022会計年度第1四半期までの四半期ごとの売上高の推移。新型コロナウイルス感染症の大流行が世界規模になりだした2021会計年度の第1四半期を境に、成長ペースが急伸している
2022会計年度第1四半期までの四半期ごとの売上高の推移。新型コロナウイルス感染症の大流行が世界規模になりだした2021会計年度の第1四半期を境に、成長ペースが急伸している

 4月には、1億ドル規模のベンチャーファンド「Zoom Apps Fund」を立ち上げ、Zoomと連携するアプリケーションやサービス、ハードウェアなどの開発者の支援に乗り出すなど、エコシステムの拡大を進める。「これまでは開発の体力があるパートナーごとに連携してきたが、Zoom Apps Fundはパートナーとの開発を促進するグローバルの取り組みになる」と佐賀氏。まだ英語のみでの対応になるが、日本から既にリモートサポートや、業務プロセスのデジタル化に取り組む企業などが参加しているという。

急ピッチのセキュリティ強化と信頼の獲得

 コロナ禍直前のZoomは、手軽なビデオコミュニケーションツールとして、ユーザー層と事業規模が徐々に拡大する状況だったが、コロナ禍の到来でこのペースが飛躍的に加速した。それ故に、2020年の初めの時期は、まだセキュリティや管理機能などが企業ユースに耐える水準に達していないとみなす向きも強く、短期間でこの水準を引き上げるべく頻繁にアップデートを行った。

 「競合サービスに先駆けてエンドツーエンドの暗号化を実装し、大規模ユーザー向けには複数の機能やサービスを1つに統合してZoomの運用管理の簡素化を図っており、セキュリティレベルはむしろ業界をけん引する側に回ったと考えている」(ソリューション エンジニア マネージャーの八木沼剛一郎氏)

ZVC Japan ソリューション エンジニア マネージャーの八木沼剛一郎氏
ZVC Japan ソリューション エンジニア マネージャーの八木沼剛一郎氏

 こうした取り組みに対して佐賀氏は、Zoomに対する一般層からのイメージや信頼の向上を課題に挙げる。というのも、CEO(最高経営責任者)のEric Yuan氏が中国出身であり、製品開発やサービス提供などでも中国企業が関係していたことから、中国を敵視する米国の地政学的な動きによって、同社に対するネガティブなイメージが広まるなどの影響が出たという。

 「むしろ製品やサービスをきちんと検証されている企業のIT部門は、われわれのセキュリティ強化への取り組みなどに理解を示してくれている。われわれに不安を感じたりネガティブなイメージを持たれたりするのは、われわれの取り組みをご存じない一般の方に多い。グローバル企業として、特定の政府の要求などには、毅然とした対応をとっていることも知ってほしい」(佐賀氏)

 2021年は同社に対する信頼の向上が重要テーマになるとし、特に金融と公共に向けた取り組みを注力する。2020年11月には金融情報システムセンター(FISC)の安全対策基準に準拠し、「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)」についても2021年中の認定取得に向けた対応を進めているという。

 佐賀氏によれば、セキュリティ要件などが厳格な業界でもZoomに理解を示す組織の幹部は少なくないが、その組織への本格導入には至りづらいことがあるそうだ。感情に起因しがちなブランドイメージや信頼の向上には時間を要すると見るが、導入実績を着実に増やしていきたいとする。

 2021年の後半は、全国な新型コロナウイルスワクチン接種の進展状況によって、“アフターコロナ”への道筋が見えてくることも期待される。1年以上が経つコロナ禍でオンラインや非接触などの“ニューノーマル”が徐々に定着する一方、企業のテレワーク利用に頭打ちの傾向が見られるなど、今後の先行きは依然として不透明だ。

 ZVC Japanは実質的に全社フルリモートワーク体制でビジネスを行っているが、佐賀氏は、「この先に状況が改善されていけば、デモンストレーションができるようなリアルなオフィスも用意し、Zoomの良さを体験していただける機会を提供したい」との展望も話している。

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