原因把握のための枠組みの活用
時間生産性の低下原因には大きく2つある。
Ⅰ.仕事の効率が悪い(非効率)
Ⅱ.仕事の結果が成果につながらない(ムダ)
さらに、低下原因を特性別に分解すると分かりやすくなる。
(1)メンバーの特性
(2)管理職の特性
(3)環境の特性(「物理面」「手続き面」「風土面」で構成)
低下原因と特性を組み合わせた6つの枠組みの中で、職場で実際に起こっていることがないかを検証した上で、原因を深掘りし、対応策を具体的に考えてみる。
Ⅰ-(1)(非効率×メンバー)
非効率の原因には、メンバーの「始動が遅い」「集中力が続かない」などがある。自宅で仕事をしていると中だるみもある。対策としては「集中タイムを設定する」「終わりを決める(予定を入れる)」など自己管理の習慣を身に付けると良い。その際コーチ役を付け1on1をルール化し定期的にフォローできるとさらに良い。
なお、筆者が集中したい時には、通常25分の作業と5分の休息を1セットにして継続することで集中力を維持するという時間管理術のひとつ、“ポモドーロテクニック”のアプリを活用している。
Ⅰ-(2)(非効率×管理職)
非効率の原因には、管理職の「指示が不適切」「丸投げ」などがある。同じ時間と空間にメンバーがいないため、管理職は今まで以上に完成イメージを固め、「目的」「誰が」「いつまでに」「方法や達成レベルの具体性」などを押さえて指示をする必要がある。
また、業務の進捗を上司と部下、チーム内で可視化することも有効で、情報共有や業務管理を行うマネジメントツールの導入も一考である。なお、マネジメントツールは各人のやり取りをデータ化し、チームの心理状態を把握できるものがお奨めで、職場改善に向けた現状把握や進捗管理に生かすことができる。
Ⅰ-(3)(非効率×環境)
非効率の原因には、「通信環境が脆弱」「机や椅子が仕事に適さない」などの物理面、「連携不足による重複作業」などの風土面がある。物理面の改善には投資判断も絡む。リモートワーク手当や一時金を付与し各自に作業環境を整備させるのも良い。
連携不足といった風土面の問題は、同じ時間と空間を共有していないと生じやすい。定期的にランチや会合をオンラインやリアルで開催するなど、関係性を良くするルールを作り、チームの心理的安全を確保することも望ましい。
Ⅱ-(1)(ムダ×メンバー)
ムダの原因には、「マイルールにこだわる性格」などがある。第3回の「IT意識高い系人材」もこのタイプである。マイルールが何かによるが、理にかなったルールを定めることで対処するのが良い。例えば、電話中心のやり取りはリモートにあまり適さないが、話せばすぐ終わることもある。緊急時を除き予告なしの電話は避け、事前告知の上で対話をする、用件をまとめた上でチャットやメールをする、と限定するのも一案である。
Ⅱ-(2)(ムダ×管理職)
ムダの原因には、管理職の「性格(完璧主義や強い不安感)」などがある。業務上の不安から、参加の必要性が高くないメンバーもウェブ会議に参加させる管理職がいる。対策としては、第1回で言及したウェブ会議のルール化などが有効である。
Ⅱ-(3)(ムダ×環境)
ムダの原因には、ハンコや紙処理の残る稟議などの手続き面、第2回で紹介した閲覧制限や監視を強化する風土面などがある。会社の姿勢が一番表れやすい領域で、経営陣には新しい働き方を根付かせていく気概を示してほしい。時にはリモート運用を妨げる社員の退出も辞さない覚悟が求められる。
おわりに
本連載は今回で最終回となるが、各記事を参考に、ぜひ効果的なリモートワークを実現し、高い成果を出し続ける組織、チームを作られることを祈念する。
- 三沢 直之(みさわ なおゆき)
- クニエ ヒューマンキャピタルマネジメント担当
シニアマネージャー - 戦略系コンサルティングファームにて経営全般のコンサルティングに従事後、人材系ベンチャーにて事業企画室の室長、および現場のマネジメントに従事。銀行系シンクタンクにて人事全般のコンサルティングサービスを提供後、2018年より現職。社会保険労務士。