クラウドコンピューティングは昨今、最大のビジネスといってもよい存在になっており、業界の年間売上高は1000億ドル(約11兆円)規模に上っている。一方、企業がクラウドコンピューティングに適正なレベルをはるかに超える金額を支払っている可能性もある。
これは、カリフォルニア州のシリコンバレーに拠点を置く大手ベンチャーキャピタル企業であるAndreessen Horowitz Capital ManagementのパートナーであるSarah Wang氏とMartin Casado氏によって導き出された結論だ。両氏は企業のクラウドコストが驚くほどの金額になっている場合もあるとし、最近の分析に「クラウドが企業戦略を推進する過程の早い段階で約束通りの成果をもたらすのは明らかであるものの、企業の規模が拡大し、成長速度が鈍化するとともに、クラウドが利幅に与える負の影響はそのメリットを上回ってしまう場合もある」と記している。
もちろんながら、コスト削減はクラウド導入の初期段階にもたらされるメリットでしかなく、この他にもクラウドリソースが提供する柔軟性やアジリティーというメリットがある。Wang氏とCasado氏もその点を認めており、「こうしたシフトは、企業がまさに必要としている規模のインフラを即座に提供することで業務と経済の双方の効率を向上させるという、信じられないほどパワフルな価値命題によって推し進められている。また、クラウドによって解放された企業リソースを新たな製品や成長への取り組みに振り向けられるようになるため、イノベーションの醸成が支援される」と記している。
ここでの落とし穴は、企業がオンプレミス資産をお払い箱にし、クラウドサービス上に自社のアプリケーションを構築するようになった後で、クラウド関連コストの重荷に気付いたとしてももう手遅れだというところにある。「効率を劇的に向上させるためのコードの書き直しや、大々的な再編成には何年もかかる恐れがあり、成功の見込みがないとされることもしばしばだ」という。
Wang氏とCasado氏は「一部の企業は『リパトリエーション』(回帰)、すなわちワークロードの大半をオンプレミスに戻すという劇的な動きを採用した一方、ハイブリッドアプローチを採用した企業もある。そしてこうした道に進んだ企業は大きなコスト削減を報告している」と指摘している。しかし両氏は、クラウドからオンプレミス環境へのリパトリエーションは困難、かつコストのかかる作業になる場合もあると警告している。