セールスフォース・ドットコムは11月2日、地方自治体での「Slack」導入事例を披露するオンラインイベントを開催した。同社はSlackを「企業のデジタルヘッドクォーター」と定義づけ、メールを上回る優位性やオープンなコミュニケーションを実現可能であると主張している。イベントでは、三重県、静岡県浜松市、北海道森町のケースが紹介された。
「あたたかいDX」を目指す三重県
三重県庁は「あったかいDX」を標榜している。三重県 デジタル社会推進局 スマート改革推進課 情報基盤班 班長 岡本悟氏は「あったかいDX」について、一般的に認識されているデジタルトランスフォーメーション(DX)に加えて、「DXによって県民の皆さまの時間に余裕が生まれ、家族や恋人との時間や趣味の時間、学びの時間として活用できるようになり、幸福実感が向上すること」だと解説した。
同庁は4月1日に約50人規模のデジタル社会推進局を設立し、システム全体の最適化や戦略立案を担うデジタル戦略企画課、県庁DXの推進と市町DX促進をうながすスマート改革推進課、民間企業と連携してDXを推進するデジタル事業推進課の3課を用意する。
岡本氏はデジタル変革を実現することが「“昭和96年”状態からの脱却」だと強調する。「“平成35年”ではインパクトが足りない。(現場が)会話、対面会議、紙資料から変化していないことを卑下した表現。IT基本法が施行されて20年が経過しても日本のIT化は進んでいない」(岡本氏)
三重県庁は8月にSlackの試験導入を開始したばかり。デジタル社会推進局のワークスペースを設定し、トレーニングやチャンネル命名のガイドライン策定、マナーの浸透など極めて初期段階にある。
だが、9月段階の同局在宅勤務率は90%を達成したという。自宅私用PCからリモートデスクトップで県庁内PCのデスクトップ画面を転送し、PCを所有していない職員には貸出端末を用意。オンライン会議サービス「Zoom」のライセンスを契約し、各職員は貸与された「iPad」から総合行政ネットワーク(LG-WAN)経由で会議に参加する仕組みだ。
Slackを導入してもビジネスチャット文化の醸成に至らず閑古鳥が鳴く例は珍しくないが、岡本氏は「緊急事態宣言下の8月27日から9月30日はメッセージ数が増加し、9月16日には734件に達している。現在は皆、登庁しているため落ち着いたが、有効に活用できた」と効果を語った。
Slackの有用性について同庁は「特にスレッド機能が便利。メールでは埋もれがちな話題も、1つのテーマに対して議論できる。もう1つはハドルミーティング。オンライン会議をせず気軽に会話でき、業務効率の改善につながった」と述べた。同庁は2022年6月末までSlackの試験運用を継続する。
「LGX」を掲げる浜松市
浜松市役所はデジタルを活用した「デジタルファースト宣言」を2019年10月31日に布告した。2020年4月1日には官民連携を目的とした「浜松市デジタル・スマートシティ官民連携プラットフォーム」と、庁内のデジタル化を目指す「デジタル・スマートシティ推進本部」を設立している。
同本部を兼務する浜松市役所 情報政策課 村越功司氏は「何かするときに行政だけでは進まない。多くのプレーヤーとのコミュニケーションにメールを使うのも限界だった」と吐露し、「LGX(ローカル・ガバメント・トランスフォーメーション)を」という語句を掲げた。具体的には「Google Chromebook」やSlack、Zoomを組み合わせた環境で、在宅勤務やオンライン会議、フリーアドレスの実現を目指すというもの。
その効果として村越氏は「やはり情報の共有の速さ。不要な情報はノイズになるが、(複数のチャンネルを用意することで)必要な情報を必要な情報に渡せる。また、縦割り構造がアメーバのようにプロジェクトが自由に生まれていく。コロナ禍にも対応でき、(Slackは)行政運営にマッチしたツールだった」と評した。