ESG(環境・社会・ガバナンス)経営やSDGs(持続可能な開発目標)の重要性への認知が進む中、SAPはソリューションへの組み込みにより、企業が手軽に着手できるようにしている。背景にあるのは、自社が12年取り組んできたことの自信だ。SAPジャパンが11月19日、サステナビリティー経営について自社の取り組みと製品ソリューションを説明した。
合理性と情熱
環境大国ドイツを本拠地とするSAPがサステナビリティーへの取り組みを本格化したのは、2009年。その前年の2008年に世界を襲った金融危機では、SAPも影響を受けた。そこでビジネスをいかに持続可能にするかを経営層が重要視し、中期的戦略ゴールに取り込んだという。
SAPは、英国グラスゴーで開催された「COP26」(第26回気候変動枠組条約締結国会議)に合わせて、2025年以降に購入する全ての社用車をエミッションフリーにすることを発表している。既に保有車両のEV(電動自動車)比率は20%を占めているそうだ。
このような継続的な取り組みは、外部からも評価されている。同社は、DOW JONESの「サステナビリティー・インデックス」(DJSI)では12年連続ソフトウェア業界で1位、MSCIの「ESGレーティング」では最高評価のトリプルA(AAA)を長年獲得しているという。
SAPジャパン 常務執行役員 チーフ・トランスフォーメーション・オフィサー兼デジタルエコシステム事業担当の大我猛氏
SAPジャパン 常務執行役員 チーフ・トランスフォーメーション・オフィサー兼デジタルエコシステム事業担当の大我猛氏によると、「『世界をより良くし、人々の生活を向上させる』というSAPのパーパスの実現で、サステナビリティーは重要な役割になっている」という。
具体的な取り組みとしては、「SAP自身が実践して手本になる」と「顧客のエネーブラーになる」の2軸で進めている。
実践については、「合理性」と「情熱」がキーワードだ。「パーパスを掲げるだけでは不十分。日々の業務に落とし込むことが重要」と大我氏。そこでSAPは、女性の管理職比率、二酸化炭素(CO2)排出量などの非財務目標も設定し、各事業の責任者は財務、非財務の両面の目標達成に対して業績が評価されるようにしているという。
SAPのサスティナビリティー推進の両輪は「合理性」と「情熱」
大我氏はまた、SAPの「統合報告書」にも触れた。通常、企業が開示する年間報告書は売り上げや利益といった財務指標のみだが、SAPは2012年から社会、環境などの指標も入れて「統合報告書」として公開している。ドイツでも一番早い取り組みだったそうだ。「いかに財務と非財務を包括して企業の持続可能性を向上させるかの統合思考が重要だが、統合報告により統合思考が可能になった」と大我氏は説明する。
SAPがサステナビリティーを戦略として大きく打ち出したのは、現最高経営責任者(CEO)のChristian Klein氏が就任してからだが、Klein氏自身も6月の「 SAPPHIRE NOW」で「全ての企業がバランスシートに非財務指標を組み込むことになるだろうと」述べている。
SAPはまた、財務視点だけではなく、環境や社会などの視点も取り入れて企業を評価するための標準的なモデルを模索する「Value Balancein Alliance」(VBA)を、BMW Group、BOSCH、ドイツ銀行などと共同で立ち上げている。VBAのモデルをSAPでも試験導入し、CO2排出を金額に換算するなどして分析しているという。VBAが成熟することで、経済的、社会的、環境的な価値から企業を評価、比較できるようになると大我氏は説明する。
情熱では、実行する社員のパーパスを引き出すことだ。SAPは「One Billion Lives」として、10億人の生活を豊かにするための社会課題解決事業アイディアを社員から募っている。日本でも一般社団法人のグラミン日本と、生活困窮者を支援するジョブマッチングの取り組みを開始している。
社員向けにはサステナビリティーのダッシュボードも用意している。「裏にデータ集まる仕掛けがあってこそだ」と大我氏。データ経営の基盤はサステナ経営でも重要だ