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日立と西鉄、人の自然な行動変容を促す「ナッジ応用技術」を実証へ

大河原克行

2022-01-12 06:30

 日立製作所と西日本鉄道(西鉄)は1月11日、鉄道やバス利用者の行動変容を促すアプリを用いた「安心快適なおでかけサポート実証実験」を2月1日から行うと発表した。2021年3月の1回目の実証実験に続くもので、今回は規模を拡大するとともに、西鉄電車と西鉄バスの利用者の参加も募集する。一人ひとりの理想的な移動体験を実現できるサービスの実用化を目指すとし、1000人の参加を見込む。期間は3月7日まで。

行動変容のイメージ
行動変容のイメージ

 両社の取り組みは、日立独自の「ナッジ(促す)応用技術」を活用して公共交通機関利用者の行動変容を促すことで、新しい日常生活や社会に即した移動と経済の活性化を両立することを目標にしている。ナッジとは、人々が強制ではなく自発的に望ましい行動を選択するよう促す仕掛けや手法を示す用語。今回の実証実験では、日立が特許出願中の「ナッジの連結技術」を強化するとともに、新たに「ナッジのパーソナライズ技術」を適用する。

 新型コロナウイルス感染症の拡大により、移動中の密集や密閉空間を避けることや、不要不急の外出を控えることが重要となる一方で、公共交通機関の利用減少が交通事業者や沿線の商業サービスの経営に大きな影響を及ぼしている。また、「ウィズコロナ」の環境では、混雑を回避しながら、安心・安全で、快適な外出をしたいという個人の新たなニーズも高まってきた。

 両社は、テクノロジーを活用して混雑の緩和や回避により安全で快適な移動環境を実現し、人々の「QoL(Quality of Life)」を向上させ、同時に交通事業者と商業サービスの持続可能な経営を支援する仕組みづくりを目指すという。例えば、バスの混雑時には、利用者の好みに応じて、近隣の空いているカフェで利用できるクーポンを提供し、混雑ピークを避け、カフェを利用するようにナッジするといった具合だ。

 「混雑を避けたストレスフリーな行動選択を支援し、移動需要の平準化と増加、商業施設への誘客を支援する。街全体で人を分散させ、興味がありそうな行先に誘導することで、安心、安全を確保しながら、移動を楽しむことができ、街の人の暮らしを豊かにする支援ができる。ストレスフリーな移動と新たな移動需要の喚起、地域の賑わい促進によるサステナブルな街の実現を目指す」(日立製作所 研究開発グループ東京社会イノベーション協創センタ プロジェクトマネージャーの廣井和重氏)とする。

ナッジを活用するアプリ(イメージ)
ナッジを活用するアプリ(イメージ)

 生活者に対しては、混雑を避けて子どもを連れてゆったり移動したり、お気に入りのスポットに出かけたり、寄り道で混雑を避けて時間を有効活用したりするといった提案につなげるという。また交通事業者には、利用者への移動需要の分散による混雑の平準化や、安心・快適な移動の提供による移動需要の喚起が期待されるとする。商業施設には、交通事業者との相互誘客による集客効果の向上や、街の活性化につなげることができるとしている。

 西日本鉄道 まちづくり・交通・観光推進部課長の阿部政貴氏は、「交通事業者は人口減少や高齢化への対応に加え、コロナ禍での生活者の移動抑制などによって生まれた新たな社会への対応が求められている。その一方で、テレワークなどにより、行動時間や場所の自由を獲得した人も多い。時代に合ったサービスを提供することが大切であり、それが街の賑わいにもつながる」と述べた。

 2021年3月17日から17日間行われた1回目の実証実験は、561人のモニターが参加し、バス利用者を対象としたアプリを使って混雑情報や寄り道先の提案による「混雑回避」と、新たな行先の提案による「移動目的創出」などを実現、ナッジ応用技術が利用者の行動変容促進に有効であることを確認したという。

実証実験でアプリに表示した混雑情報を参考にした人は67.2%だった。経路検索の結果から出発時間や経路変更した人のうち15.6%が、「混雑していそうだったから」と回答。移動需要の平準化につながる可能性が得られたとしている。また、1日を通じて表示を基に混雑していないバス便が選ばれる傾向が確認されたほか、特に朝の通勤時間帯には、コロナ禍で広がった時差出勤を利用できる会社員を中心に、空いている便が選ばれる傾向が強く、混雑を避けるピークシフトにも効果があると分析した。さらに、勧められた店舗に行った人は12.5%、店舗利用の意向があった人は38.7%と、合計で半数を突破。店舗利用者の21.1%は、「お店に行くために外出した」と回答しており、移動需要の増加に寄与できる可能性を得たとしている。

前回の実証実験の結果。ナッジの効果が認められたという
前回の実証実験の結果。ナッジの効果が認められたという

 日立では、これらの結果をもとに移動という観点から、ナッジ応用技術によって人々の行動変容を促す情報を生成するプラットフォームを開発し、これを活用してピークシフトの実現や移動総量の増加、商業施設への誘客に対する効果と実用性を検証するという。

 今回の実験では西鉄バス路線の対象エリアを拡張する。天神・博多エリア通る路線のほか、大橋駅や西鉄久留米駅を通る路線に加え、新たに西鉄電車の天神大牟田線、太宰府線、甘木線を追加し、寄り道先として提案される商業施設数を前回の49店舗から3000店舗以上に増やした。そのうち30店舗ではリアルタイムな混雑情報も表示できるという。また、アプリの機能を強化して経路情報や混雑情報などに基づき、混雑を回避するルートを提案したり、出発時間の提案、利用者の特性に合わせた寄り道先を提案したりするといった機能拡張と操作性の改善を行った。

 さらに今回の実証実験では、参加者がアプリで移動経路を検索すると、混雑を回避するルートや寄り道先などの移動パターンを、個人の特性に応じて表示する点が特徴になるという。移動パターンは、西鉄電車とバス路線の各区間における天候を加味した統計的な混雑推定や、商業施設の混雑情報、目的地への経路、個人の嗜好や特性などに基づいて提案されるという。

 また、検索したルートの一部区間が混雑していた場合、混雑を回避できる代替経路や代替出発時刻の提案に加えて、寄り道先も提案する。この時に健康志向の高い人や地元への貢献意識が高い人といったように、それぞれの人の特性に合わせて提案内容が変わる。「行く場所が思い当たらない場合に、バスや鉄道の混雑、個人の好みなどから、ピッタリの行先を提案するといった使い方もできる」(日立製作所の廣井氏)。参加者の特性ごとに提案内容を変更した場合に、移動パターンの受容率がどのように変化するかも検証するという。

 ナッジは、提唱者であるRichard Thaler氏が、2017年にノーベル経済学賞を受賞したことで、世界各国で研究が加速。日本では環境省や経産省、国交省が2018年から検討組織を発足し、2019年には環境省が二酸化炭素の排出量削減に向けた行動変容方策を募集する最初の国家プロジェクトがスタート。都市、交通、健康管理の分野での研究が進められているという。なお、ナッジの語源は「ひじで軽く突く」と言う意味からきている。

 今回の実証実験で活用した日立のナッジ技術は、「ナッジの連結技術」と「ナッジのパーソナライズ技術」で構成されている。「ナッジの連結技術」は、関連するナッジをつなげて効果を大きくするものであり、「一つずつのナッジの効果は小さくても、これらをつなげ、メッセージ性の強い一つの情報として提案することで、行動変容に対する効果、向上が期待できる」(日立製作所の廣井氏)という。

 また、「ナッジのパーソナライズ技術」は、個人特性に合わせたナッジにより効果を大きくする技術で、「アプリのアンケートに回答してもらうことで個人の属性を判断し、一人ひとりの個人の特性に合わせてナッジを出し分け、パーソナライズした情報により行動変容に対する効果向上が期待できる」(同)としている。

日立独自のナッジ技術
日立独自のナッジ技術

 この2つのナッジ応用技術を活用して、新たに開発した「ナッジ応用プラットフォーム」は、運行情報や天気などの「外部環境情報」、現在地や目的地、移動経路などの「移動に関する状況や要求」、個人の志向や好みといった「利用者の特性」の3種類の情報を関連させて分析し、提示できる点が特徴だ。「個別に用いていた情報を鎖のようにつなげて、人の移動や特性に合わせた情報を交通事業者のルートとつなげて表示し、行動変容を促すことになる。表示された内容の安心感だけでなく、納得感も重視していきたい」(同)とする。

 プラットフォーム化によってさまざまなアプリの開発や連携も可能になり、今後は多様なアプリでのナッジ応用が促進できるという。日立では、今回の実証実験の結果を踏まえて、2023年以降、Mobility as a Service(MaaS)アプリとの連携や、プラットフォームの正式なリリースを通じて、交通事業者や民間企業への提供を目指すという。「一人ひとりの理想的な移動体験の実現や、需要変化に伴う交通モードの運行最適化の実現、環境負荷の低減、SDGsへの貢献、社会課題の解決につなげたい」(同)としている。

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