内山悟志「デジタルジャーニーの歩き方」

DXに向けて全ての従業員に求められる行動

内山悟志 (ITRエグゼクティブ・アナリスト)

2021-06-16 07:00

 デジタル変革(DX)とは、デジタル“に”適合した企業に丸ごと生まれ変わることであり、ミドル層や若手を含め、従業員一人ひとりが主体性を持って進めていかなければなりません。デジタルを組織カルチャーといえるほど全社に浸透させ、DXを戦略の中核に据えた企業となるためには、全ての従業員の行動変容が求められます。

全ての従業員に求められる行動様式

 組織や制度を変えたり技術を導入したりすることは、その気になればすぐにでも実行できます。しかし、全社員の意識や行動様式を変え、組織カルチャーを根づかせるには長い時間と大きな労力を要します。DX推進に当たって、経営者とDX推進リーダーは非常に重要な責務を担っています。しかし、いかに経営者が旗を振り、DX推進部門が奮闘したとしても、従業員一人ひとりの行動変容が伴わなければうまく進みません。組織カルチャーや全従業員の意識の変容が技術よりも重要となりますが、難易度が高く、多くの日本企業にとってネックとなっているといえます。

 本連載の前々回前回では、DXに求められる経営者および推進リーダーに求められる5つの行動を示しましたが、今回は全ての従業員に求められる5つの行動について述べます(図1)。

図1.DX推進リーダーに求められる5つの心構え 図1.DX推進リーダーに求められる5つの心構え
※クリックすると拡大画像が見られます

自ら、主体的に最初のひと転がりを起こす

 一昔前までは、カリスマ経営者が創造と変革の主導者でした。パナソニックの創業者である松下幸之助氏、ソニーの井深大氏と盛田昭夫氏、セコムの飯田亮氏など、数え上げればきりがありません。彼らは自らの発想で全く新しい価値を創造し、何もなかったところから市場を切り拓いてきました。

 しかし、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、仮想通貨などが台頭するこのデジタルの時代に、現在の経営者は自ら主導者となってデジタルによる変革を起こすことができるでしょうか。もちろん、現代にも大きな変革を断行し、市場を切り拓いている経営者は存在します。しかし、「技術のことはよく分からない」「担当者に任せている」という経営者も少なくありません。経営者のリーダーシップをただ待っているのでは何も始まらないと考え、全てのビジネスパーソンが自ら行動を起こさなくてはなりません。

 もちろん、DXを全社的に推進していく上で経営者の理解と協力は非常に重要であり、必要なものです。しかし、実際にアイデアを出し、行動し、試行錯誤を繰り返しながらDXを推進していくには、ミドル層や若手を含め、従業員一人ひとりが主体性を持って取り組み、経営層を動かしながら進めていくことが求められます。

 まずは、身の回りの小さな課題解決でもよいので、最初のひと転がりとなる行動を起こすことがその第一歩となります。そして、賛同者や協力者を大切にし、巻き込みながら活動を拡大していく、ボトムアップ型またはミドルアップダウン型のアプローチが有効です。

過去の常識を捨て、ゼロから発想する

 DXへの取り組みを開始するに当たって、まず先進事例を調べ、その範囲内で考えようとしたり、これまで成功してきたやり方や考えにこだわって、それを変えようとしなかったりという姿勢が散見されますが、これを「過去の常識症候群」と呼びます。しかし、デジタル活用や企業変革を推進するための方法論や成功の法則が定まっているわけではありません。

 また、自社や他社の過去の成功体験がそのまま通用するわけではなく、自らいばらの道をかき分けながら進んでいかなければならないのです。先行する取り組みを参考にすることは無駄ではありませんが、前例や成功事例がなければ挑戦しないという姿勢では「過去の常識症候群」に陥っているといわざるを得ません。過去の常識を捨て、ゼロから発想するには、そのための発想法を手に入れなければなりません。

 デジタルの世界では、顧客を中心に据え、顧客にとっての体験を完璧なものにすることに力を注ぐことが求められます。以前から多くの企業が「顧客第一」を重要戦略としてうたっていますが、スローガンとして顧客第一を掲げることと、顧客体験を起点として商品やサービスをゼロから発想することには根本的な違いがあります。今あるものを前提にそれをより良くするという考えをいったん捨て、これまでのビジネスや業務がなぜ必要なのかというところに立ち返って、顧客を中心に据えてゼロベースで再考することが重要です。

情報発信することで、さらなる情報と仲間を集める

 DXの重要性を認識し、自ら行動を起こして最初のひと転がりを始めたとしても、誰も賛同者や協力者がいなければ、孤軍奮闘しなければならなくなってしまいます。賛同者/協力者を得るには、自分の興味、問題意識、やりたいこと、知りたいことがあれば、それを能動的に発信することが大切です。日本人には、目立つのを好まない、自己アピールが苦手、という人が多い傾向が見られます。

 特に若い人の中には、知識が十分でない、まだ実績がないといったことを理由に、情報発信をためらう人も少なくありません。しかし、情報は発信すればするほど、さらに情報が集まってくるという特性があります。情報を集めたいと思ったら、情報を聞きに行くのではなく、まず自ら発信することが重要です。情報を発信することで、その分野に関心を持つ人がフィードバックを返してくれるかもしれません。また、発信した情報に知識不足や誤りがあった場合は誰かがそれを正してくれたり、新たな知見を補ってくれたりするかもしれません。

 このように、情報を発信し、その分野に興味があることや何らかの知識や経験があることを広く知らしめることで、情報を受け取った側から質問や相談が寄せられることがあります。尻込みをして何も発信しなければ、そこにコミュニケーションは発生しませんし、新しい発見も学びも生まれないのです。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]