積水化学と日立製作所は、材料開発におけるマテリアルズインフォマティクス(MI)の推進に向けて共同研究を開始した。材料に関するデータと人工知能(AI)などのデジタル技術を駆使することにより、短期間で効率的に材料特性や知見を見いだすことが可能なMIの推進に取り組む。新材料開発の加速や研究開発の効率化・高度化を目指し、日立のさまざまなソリューションのほか、先行研究として進める技術も幅広く活用し、積水化学の実業務においてその有用性を検証していく。
MI推進に向けた両社の役割
両社の具体的な取り組みとして、(1)CMOSアニーリングを活用した材料特性の最適条件探索による材料開発の高度化、(2)AIを用いて材料開発知識の整理を自動化し、多様な知識を蓄積するナレッジベースを構築、(3)実験デジタルツインの構築と実験データ収集の自動化による材料実験業務のDX化――が挙げられている。
(1)では、日立が開発した量子コンピューターを疑似的に再現するCMOSアニーリングを材料開発分野に適用し、その効果検証を行う。新材料の開発において、多くの選択肢の中から最適な条件の組み合わせを高速かつ高精度に予測し、積水化学が得意とするMIを用いた複雑な配合設計を加速していく。
(2)では、日立独自のAIを用いて、社内外のさまざまなデータの整理を自動化し、さらに国や研究機関が公開するデータベースと統合する。これにより研究者が着目する多様な知識を蓄積する「材料開発統合ナレッジベース」を構築し、その有用性を検証する。研究者は蓄積した材料開発知識を横断的に検索できようになり、実験情報の収集工数を削減できる。また多くのデータを用いた高度な新材料候補の予測が可能になり、材料開発の効率化が期待できる。
(3)では、材料開発の現場で行われる実験ワークフローをサイバー空間上に再現し、各プロセスの実験データ(例えば、材料・手法・装置・作業者など)を関連付け、デジタルツイン環境を構築する。また、実験業務の自動化・リモート化に向けて、実験で用いられる計測装置とデジタルツインの連携に向けた検討も行い、材料開発の効率向上に関する効果を検証する。
また試料合成や計測など実験過程で生まれるさまざまなデータを収集し、各データと実験ワークフローを日立の「IoTコンパス」を用いて関連付け、データを統合的に管理する。IoTコンパスは、設備の稼働状況や品質情報などの制御技術(OT)データと、計画や在庫管理などのITデータをデジタル空間上でひも付けて、デジタルデータを容易に利用できるようにし、生産工程全体の最適化を支援ソリューション。なお、この取り組みでは、計測装置とIoTコンパスを直接連携させ、データ収集や解析の自動化を目指す。