米IBMは12月13日、Rapidusと半導体ロジック・スケーリング技術での共同開発に向けて戦略的協業を開始すると発表した。IBMが開発する2ナノメートル(nm)ノードの半導体技術をRapidusの国内製造拠点に導入する。
2nm半導体技術で協業を発表したRapidus 会長の東哲郎氏、社長の小池淳義氏、米IBM シニアバイスプレジデントのDario Gil氏、日本IBM 社長の山口明夫氏、常務CTOの森本典繁氏(左から)
この協業に基づきRapidusは、同社の技術者をIBMの研究開発拠点がある米国アルバニーのAlbany NanoTech Complexに派遣し、IBMから2nmノード半導体技術を習得。その後に日本国内で量産化に向けた技術開発およびパイロットの生産ラインを構築する計画。これに成功した場合、Rapidusでは2020年代後半に2nmノード半導体の量産を開始する予定だという。
IBMは、2021年5月に2nmノード技術による半導体のテスト製造に成功した。同社によれば、2nmノードの半導体チップは、7nmノードのチップに比べ性能で45%向上し、消費電力を75%削減できるとする。現時点で5nmノード以降でのチップの量産化に成功した国はなく、両社は今回の協業で2nmノードチップの量産化による世界最先端の製造体制を実現したいとしている。
IBMが開発している2nmノード技術のテスト半導体の成果(IBM提供)
同日都内で記者会見したIBM シニアバイスプレジデント IBM Research ディレクターのDario Gil氏は、「現在社会において半導体はまさに心臓であり、IBMはメインフレームをはじめ数十年にわたり最先端の半導体技術で世界を支えてきた。こうした中で地政学的リスクの高まりなどの要因もあり、最先端の半導体技術の製造や調達における改善と地理的な分布が必要になっている。日本は世界的にも半導体製造に優れたリソースが集積しており、とても信頼できるパートナー。この協業は戦略的かつ長期的なものであり、エコシステムでもって成果を出していきたい」と述べた。
また、日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏は、「現代はIT、データの重要性が非常に増しており、IBMではお客さまの将来を見据えて量子コンピューターをはじめとする最新の技術を提供してきた。2021年には世界でいち早くゲート型商用量子コンピューター(IBM Quantum System One)を日本に導入した。IBMにとって日本は極めて重要な市場。世界最先端の半導体技術についても日本に一緒で展開し、お客さまのために取り組んでいく所存だ」と語った。
Rapidusは、キオクシア、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、NEC、NTT、三菱UFJ銀行の出資で8月に設立。11月には、経済産業省が次世代半導体の設計・製造基盤の確立を目指してRapidusに約700億円の補助金の支給することを決定した。
Rapidus 取締役会長の東哲郎氏は、「IBMとの協業は日本にとって極めて重要であり、世界最先端の技術が日本に提供されることは、日米の長年にわたる厚い信頼関係によって実現したもの。先行きの不透明さが増し、地政学的リスクも高まる中では地域的な偏りがリスクになる。世界の産業界が連携してバランスを図ることが重要であり、今回の提携は大いに意義のあること。Rapidusとしても非常に恵まれたスタートを切ることができる」などと話した。
Rapidusは、IBMからの技術ライセンスの供与と人材交流を得て、量産化に弾みをつけたいとする
今回の協業では、2nmノード半導体チップの量産化に道筋をつけることが目標になる。量産化の見通しについて小池氏は、「非常に大きな挑戦になるが、IBMはそのために必要な技術を保有しており、われわれとの信頼関係もある。日米政府の支援もあり、綿密な計画と実行力でもって(量産化を)実現できると考えている」とした。Gil氏は、「日本にはファウンドリーとしての役割だけでなく、(2nmノード半導体チップが必要とされる)新しいさまざまなコンピューティングの用途が生まれる機会となる場としても期待している」とコメントした。