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円安加速と人件費増によるクラウドサービス料金値上げ--ガートナーにリスク対策を聞く

田中克己

2023-06-28 07:00

 クラウドサービスの利用料金に対する日本企業の不満が高まっている。外資系ベンダーを中心に為替変動や人件費増などを理由に値上げが相次いでいるからだ。ライセンス料金を2倍にするなど、便乗値上げかと疑ってしまうケースもあったという。IT予算に大きく影響するこうした値上げを受け入れるのか、はねつけるのか。

 ガートナージャパンでリサーチ&アドバイザリ部門のバイスプレジデントを務める海老名剛氏は、幾つかの対策を提案する。複雑化するクラウドサービスやソフトウェアのコストを含めた資産管理の徹底が求められている。

 日本マイクロソフトは4月1日、オンプレミス製品を20%、オンラインサービスを15%引き上げるなど、法人向けライセンス/サービスの料金改定を実施した。理由は為替変動によるものだという。海老名氏によると、例えば、外資系ベンダーが為替レートを1ドル=120円から140円の換算にし、製品ライセンスやサブスクリプションの料金を改定するケースが増えているという。特別割引をなくして実質30%の値上げとなったり、エンジニアの人件費増などを理由に1年契約のサポートサービスを10%引き上げたりといった具合だ。データセンターでは、エネルギーコストの上昇などから30~50%の値上げという。

ガートナージャパンでリサーチ&アドバイザリ部門のバイスプレジデントを務める海老名剛氏
ガートナージャパンでリサーチ&アドバイザリ部門のバイスプレジデントを務める海老名剛氏

 あるベンダーは、日本のユーザー企業に利用料金を2倍にするか、契約を打ち切るかの選択を迫ったという。「市場を絞り込み、利益が取れないなら、サービスの提供を止めるということだろう」と海老名氏は指摘する。

 為替変動や物価上昇だけでは説明できないような値上げは許さない方針で交渉に臨みたいものだが、海老名氏は「そもそも(料金を急に)2倍にするようなベンダーを選ばないこと」と助言する。ベンダーの切り替えといった選択肢を持つことも説く。「代替製品があるのか契約前に調べておく」(同氏)ことが肝要だ。

 四半期ごとなど定期的な市場調査も怠ってはならない。仮に、あるベンダーが3年後に100ユーザーを獲得する目標を掲げていたら、1年目、2年目の達成度を確認する。その進展度合いが値上げや撤退などにつながる恐れもあるからだ。ベンダーの情報収集はリスク対策に欠かせない。

 海老名氏によると、ガートナーが統合基幹業務システム(ERP)やサプライチェーン管理(SCM)などのソフトウェアを導入している企業を調査したところ、約80%が不満を持っていたという。特に、ライセンス料金や付随するサービス、一方的な課金ルールの変更など、価格に対する不満が多かった。

 そこで海老名氏は、「受容」「回避」「軽減」「移転」というリスク管理の4原則を挙げ、値上げ対策に適用することを提案する。

リスク管理の4原則(出典:ガートナージャパン)
リスク管理の4原則(出典:ガートナージャパン)

 1つ目の受容について、同氏は「値上げを全く認めないことは難しい」といい、値上げの根拠を開示するようベンダーに要求し、その妥当性を評価する。データセンター事業者なら、資材価格やエネルギーコストの高騰は事実だ。物価上昇の影響もあるだろう。ただし、国や地域によって水準は異なる。多くの企業で調達部門がそうした情報を調べているので、IT部門はクラウドサービスやソフトウェアをデジタルビジネスの原価と捉えて、調達部門のデータを利用する。2つ目の回避では、契約更改を前倒しで交渉し、現料金の継続適用を試みる。

 3つ目が軽減で、一定の値上げを承諾するものの、その値幅を抑えようというものだ。加えて、5年間のサポートサービス料金は日本の物価上昇のペースに合わせる、将来の再々値上げは1ドル=150円以上になってからにする、などを約束させる。相手の要求は飲むものの、将来の値上げに制限をかけるということだ。包括契約や複数年契約など、高い割引を引き出す策もある。

 4つ目は、リスクを分散・折半するための移転になる。契約地域を海外にしたり、利用通貨を変えたりするなど、外部環境が好転した時の還元を狙う。

 クラウドサービスやソフトウェアの契約管理や資産管理を怠ってはならない。契約時の内容確認は当然として、5年間の価格上昇率や課金ルールの変更有無などにも目を光らせておかなければならない。SaaSを3年、5年の期間などで契約すると、何も言わなければ自動更新になることが多いだろう。ただ、ずっと同じ料金が約束されているわけではなく、ベンダー側のルールになる。

 これに対しては、例えば、「ユーザーは30日前までに更新しないことを申し出る」とあるなら、ベンダーが課金ルールを変更するなら「ユーザーに60日前までに説明する」と契約に加えさせてはどうだろうか。

 社内での利用状況の管理も重要だ。1000ユーザー分を契約しているのに、実際は800ユーザーしか使っていなかったら、200ユーザー分が無駄になっていることになる。だからこそ、利用料金の透明性や課金ルールの適正性、適用される割引率など、契約書の確認に時間を割くべきだ。

 ベンダーは課金ルールの変更を公表しており、直接聞かなくても確認できるはずだ。「モノの値段は上がっていく。ITも例外ではない」と海老名氏は指摘する。利用しているクラウドサービスやソフトウェアの料金が現在1000万円なら、来年は1200万円になり得る。企業はそんなリスクを想定し、経営層に理解させる必要がある。また、「来年はより高い効果を生み出せる」、そう考えて、どこまで値上げを受け入れるかも重要な視点だ。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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