「ChatGPT」のようなチャット形式のジェネレーティブAI(以下、生成AI)を、日本のITベンダーも一般向けサービスとして出してみてはどうか。そんな提案を、独自の日本市場向け生成AIを開発し、提供開始したNECにぶつけてみた。さて、反応やいかに。
NECがDX事業に関する会見で生成AIに言及
前々回(8月24日掲載)の本連載記事で「日本企業からChatGPT対抗サービスを出してみてはどうか」と題して、大胆な提案をしてみた。その最後に、「かつて、PCビジネスで企業向けも個人向けも手広く展開し、巨大なエコシステムを築いて大成功を収めた経験があるNECが打って出れば、勝機があるのではないか」とも述べた。
写真1:NEC Corporate EVP 兼 CDOの吉崎敏文氏
そんな折、NECが8月30日にデジタルトランスフォーメーション(DX)事業に関する記者説明会を開いた際に、生成AIの取り組みについても言及したので、会見終了後のぶら下がり取材で上記の提案をDX事業部門のトップにぶつけてみた。さて、反応は――(写真1)。
NECはDX事業に関する会見で、同社が7月6日に「日本市場向け生成AIを開発・提供開始」と銘打って発表会見を行った内容を改めて説明した。7月の会見に続いて今回も説明役を務めた同社 Corporate EVP 兼 最高デジタル責任者(CDO)の吉崎敏文氏は図1を示しながら、「当社は生成AIでビジネスのイノベーションを創る3つの価値をお客さまに提供していく。そのために、独自の日本語対応の大規模言語モデル(LLM)を開発した。日本語に対応した実用的なLLMとしては、今のところ当社が大きくリードしていると自負している」と胸を張った。
図1:NECの生成AIの取り組み(出典:NECの会見資料)
また、同社はDX事業に関する会見を開いた同日付で、セキュリティやコンタクトセンターの業務に生成AIを積極的に活用している取り組みについてもニュースリリースを発信。生成AIへの力の入れようを印象付けた。
そうした状況を踏まえて、筆者はこの機会に生成AIを含めたDX事業のトップである吉崎氏に自らの提案をぶつけようと思い、会見終了後のぶら下がり取材に単独で臨んだ。
話は前後するが、ここで上記の提案に至った筆者の思いを前々回の本連載記事から抜粋して改めて述べておきたい。
ChatGPTをはじめとした生成AIが一大ブームを巻き起こしている中、生成AIで“肝”となるのは「LLM」というAI技術であることも認識が広がってきた。最近ではこのLLMを業務システムと連携させ、業務システムの中で生成AIを使用するという動きが活発になっている。この動きは、「生成AIはLLMをどう活用するかであって、チャットはその一部にすぎない」ことを示しているように見て取れる。
理屈から言えば、その通りだが、ここで筆者が強調しておきたいのは、「生成AIブームを巻き起こしてきたChatGPT自体の勢いや用途の広がりを甘く見てはいけない」ということだ。例えば、書店のビジネス書コーナーを見ると、ChatGPT関連本がこんなに出ているのかと驚かされるほどだ。
さらに、筆者が注目しているのは、OpenAIのLLMを利用したMicrosoftの「Azure OpenAI Service」が業務システムと連携させる生成AIクラウドサービスとして急速に広がっていることだ。明確なシェアを示した調査結果を目にしたことはないが、取材を通じての筆者の感覚と関連する調査結果を合わせて推察すると、現時点では業務システム連携案件の7割ほどがOpenAIおよびMicrosoftのサービスだと見られる。なぜ、そんなに独走状態なのか。一気に広がったChatGPTの相乗効果なのは容易に想像がつく。
ちなみに、LLMについては日本でも研究機関やIT系をはじめとしたさまざまな企業が独自技術の開発に注力している。だが、ChatGPTに対抗するような一般向けサービスを提供する日本企業はまだ出現していない。