三菱電機は、主力事業の1つのファクトリーオートメーション(FA)において、SalesforceのCRMシステムをグローバルで導入した。その展開で、同社はどのように工夫したのだろうか。テラスカイ開催の年次カンファレンス「TerraSkyDay 2023」では、FAシステム事業本部 最高DX責任者 FADXプロジェクト FADX統括部 部長の永井道生氏と、テラスカイ クラウドインテグレーション統括本部 部長の仲大之介氏が取り組みを紹介した。
三菱電機は、産業用制御システム事業を世界で展開している。FA制御機器製品の稼働台数は、シーケンサーが約1200万台、サーボが約1500万台、CNC(数値制御装置)が110万台など。2022年度の地域別売上高構成は、国内が41%、海外が59%となっている。永井氏は、FA事業では多数の既存顧客とともに新規顧客の獲得も重要になるとし、グローバルでのCRMシステムの活用が鍵になると説明した。
三菱電機が整備するグローバルCRM、右手枠内は講演した三菱電機 FAシステム事業本部 最高DX責任者 FADXプロジェクト FADX統括部 部長の永井道生氏
上述のように同社は、FA機器を世界に供給していることから、国内外に多数の販売会社がある。しかし、顧客管理などのシステムは事業ごと、地域ごとに自前で開発、運用・保守されており、地域や事業ごとの円滑な連携が難しく非効率的になっていたとのこと。「中小企業の集まりのような形で個々に成長してきたため、グローバル連携がうまくできていなかった。ちょうど市場が成長している中国と韓国での新しいシステム導入を契機として、グローバル共通のCRMを導入することになった」(永井氏)
永井氏によれば、CRMをグローバル共通とすることで、情報の一元化や重要顧客への対応の強化、迅速な導入展開と運用保守の工数削減などを図ることが期待される。ただ、地域ごとに異なる商慣習や販売会社ごとの事情などを考慮する必要があり、グローバル共通を基本としつつ、一定程度のローカライズを組み合わせていくことにしたという。その推進をテラスカイが支援した。
CRMの展開で工夫したグローバル施策とローカル施策
テラスカイの仲氏は、開発、導入展開、グローバル標準とローカライズの両立を中心に、三菱電機を支援していると紹介した。グローバルCRMの導入プロジェクトは2019年に開始され、その推進役を担う「センターオブエクセレンス(CoE)」を全社(全社CoE)とFA事業部門(FA CoE)の2つで組成。全社的な共通事項やライセンス契約などを全社CoEが、非共通項目をFA CoEが分担する体制としている。
永井氏は、CRMの導入展開における主なポイントに、グローバル標準とローカライズの両立、運用保守工数の削減などを挙げた。
前者では、重要顧客の情報を共有して営業連携を実現しつつ、営業ステージの管理手法についてもグローバルで共通化した。他方で、一部の海外販売会社は商慣習により社内での情報共有が不可となっており、また、販売会社ごとに必要とする項目や管理の粒度が異なるため、地域や販売会社ごとの要件を見極めた上で必要最小限のローカライズを実施したという。
仲氏は、「Salesforceに用意されている機能を活用して、各地の事情を把握して調整を図りながら顧客情報の機密性などを鑑み、共有や閲覧、アクセスなどの方針を検討して設定を行った。例えば、日本では個人情報保護法への対応など、各地の規制要件などにも対応を図った」と説明する。
後者では、Salesforceの標準機能を活用することで業務に必要なアプリケーションなどの対応の負荷を軽減し、社内サポートについては日本での対応に一本化することで、工数や時間を削減した。また、システムのバージョンアップなどについては、地域や販売会社ごとの状況を考慮して業務に支障を来さない対応を実施しているとのことだ。
CoEの体制と役割
こうした取り組みは、全社CoEとFA CoEの連携によって可能となっている。仲氏によれば、全体共通の事項を全社CoE、事業や地域ごとの事項をFA CoEが担当する役割分担を図ることで、全体最適とフットワークの軽い対応を両立でき、CRMのスムーズなグローバル展開を実現した。特にテラスカイでは、地域や販売会社とのきめ細かいコミュニケーションに努めたという。
今後の取り組みついて永井氏は、顧客のライフタイムに即した情報の一元管理がより重要になると述べ、顧客データの一元化やCRMを活用した顧客体験の高度化を目指していくと話す。そのためには、まだまだ属人化している業務や紙ベースのフローといったアナログな業務プロセスをデジタルベースに近代化させ、データや情報をより活用していける仕組み作りを進めていくとしている。
今後の取り組み
三菱電機は、「循環型デジタルエンジニアリング」を掲げている。これは顧客から得るデータをデジタル空間に集約、分析し、グループでの連携、アイデア創出などによって新しい価値の創造と社会課題の解決への貢献を目指すものだという。永井氏は、「これは業務領域のDXによって実現される。データが重要であり、データ活用によって顧客との関係性を強化していく」と述べた。