COBOLアプリケーションの開発・実行環境を提供するMicro Focusは、日本で4年ぶりに年次イベントをリアル開催し、最高技術責任者(CTO)のStuart McGill氏がCOBOL資産の展望などを語った。生成AIも台頭する中で企業は、COBOLの資産をどうしていくのか――McGill氏に聞いた。
まずMcGill氏は、前回のリアル開催だったイベント当時の2019年と現在(2023年)の顧客やパートナーの意識の変化をこう説明する。「われわれは、COBOLの資産をクラウドに展開しようと呼び掛けていた。現在は、顧客やパートナーから『クラウドに展開したい』と言われる。われわれにとって、これがコロナ禍の前と後での大きな変化だ」
Micro Focus 最高技術責任者のStuart McGill氏
COBOLのアプリケーションは、半世紀以上にわたり銀行の勘定系システムなど企業のビジネスの中枢を担ってきた。それにも関わらず、時には「負の遺産」とも言われてしまい、対応可能な技術者も世界的に減少し続けている。ここ数年は、それが稼働しているメインフレームをオープン系やクラウド型のインフラに移行するインフラモダナイゼ―ション(最新化)がメインテーマだ。アプリケーション自体は、そのままにして新しいインフラに移行するリホストや、コードレベルで別の言語環境に改修するリファクタリングでの対応になっている。
McGill氏は、「COBOLについて多くの人が(ネガティブな)話題にするが、それはプログラミング言語としてのCOBOLだ。注目すべきは、COBOLのアプリケーションとデータの重要性だ。COBOLのアプリケーションとデータのモダナイズによって、それらが企業のビジネスの成長における土台になる」と提起する。
同氏は、企業がブームとなっている生成AIを自社の成長に活用していく上でも、COBOLのアプリケーションとデータが土台になるとも述べる。COBOLのアプリケーションには、長年にわたって顧客とのトランザクションやビジネスプロセスなど、ビジネスの中枢であるデータが資産として豊富に蓄積されているからだという。
「企業が本当の意味でビジネスに生成AIを生かしていくには、当然のことだが、自社が蓄積しているデータで学習する必要がある。COBOLのアプリケーションには、企業のビジネスプロセスにまつわるSystem of Recordのデータがあり、企業はこのデータを生成AIに学習させ、ビジネスプロセスを高度化させるためのモデルを開発していく。われわれの顧客やパートナーが取り組むのは、それに向けたアーキテクチャーに基づくモダナイズになる」
2022年後半にOpenAIの「ChatGPT」の一般利用が開始されて以降、生成AIのソリューションが多方面から提供されるようになった。特に生成AIのベースとなる大規模言語モデル(LLM)の開発、活用などはクラウド環境が中心であり、McGill氏は、Amazon Web Services(AWS)やGoogle Cloud、Microsoftの「Azure」といったパイパースケーラーのクラウド環境がけん引役になると見る。「LLMがクラウドにあるので、アプリケーションとデータもクラウドが土台になっていく。つまり、COBOLの資産をクラウドにも展開することが必須になる」
上述のように、企業にとって現在の課題は、COBOLのアプリケーションやデータなどのレガシーシステムを稼働させてきたメインフレームなどのインフラをどうクラウドに適合させていくかになる。インフラの移行では、メインフレームからオープン系あるいはプライベートクラウド、場合によってはパブリッククラウドを組み合わせたハイブリッド型など、その方法はさまざまだ。
McGill氏は顧客に、ビジネスの成長に向けた今後のIT戦略の視点で、COBOLの資産のモダナイゼ―ションに臨んでほしいと述べる。「COBOLのモダナイズ目的は、ビジネス成長の加速だ。しかし、COBOLの環境自体を変えることは、顧客にとって退屈でしかないことも重々理解している。だから、その部分はわれわれとパートナーがお手伝いする」
また、インフラの移行では「できればリホストしてほしい」とも述べる。COBOL資産のリファクタリングには、とてつもない規模の「人・金・時間」が必要で、変換ツールなどのソリューションも提供されてはいるが、「そうしたソリューションを活用して75~80%は自動化できるだろうが、残った部分は人が作業し、COBOL資産の価値が損なわれるリスクを伴う」(McGill氏)との見解だ。
McGill氏は、Micro Focusが世界中でエンタープライズ企業のCOBOL資産のモダナイゼーションをサポートし、顧客の目的に沿うよう周辺領域とのインテグレーションを含めたプロジェクトを数多く成功させてきたと胸を張る。メインフレームで実現していたCOBOL資産の高度な信頼性や性能、安全性といったモダナイゼーション先でも担保し、COBOLにおける「餅は餅屋に」というのが、Micro Focusの一番の強みだという。
例えば、米小売大手のKmartは、Micro FocusのサポートでCOBOLベースの在庫管理システムのインフラをモダナイズし、機械学習技術を導入して商戦期ごとの在庫予測や損失分析と収益を直接結び付けることで、在庫の管理や店舗への配分などのオペレーションを高度化させているという。ベルギーの保険大手のAGは、COBOLのシステムをモダナイズして、コンテナーやAPIなどの近代的なテクノロジーを組み合わせたビジネスパートナーとのシステムインフラを構築したという。
「われわれは、顧客にこれからもCOBOL自体を使い続けてほしいと言っているわけではない。COBOL自体が長年にわたり顧客のビジネス要件を満たし続けてきた価値は、そのままであるべきだ。われわれはその価値を担保し、顧客がCOBOLの資産から新しい価値を引き出すところを支援する」
なおMicro Focusは、2023年1月末にコンテンツ管理ソリューションのOpenTextのグループ企業となった。McGill氏は、「例えば保険会社であれば、顧客との間に契約のドキュメントがあり、契約にまつわるトランザクションの記録がある。ドキュメントの部分はOpenTextが担っている領域で、トランザクションの記録はCOBOLが担ってきた。双方を連携させようということもあるだろうし、別々のままということもあるだろう。いずれにしてもわれわれはCOBOLに長年携わってきた。OpenTextのもとでも、われわれの役割は今後も変わらない」と説明している。