デジタル岡目八目

年率20%超成長をもくろむMDMのアイキューブドシステムズ、その施策は

田中克己

2024-05-28 07:00

 モバイルデバイス管理サービス(MDM)を開発、販売するアイキューブドシステムズが、売り上げを2023年6月期の26億6500万円から2026年6月期に50億円にする計画を打ち出した。

 同社 社長 兼 最高経営責任者(CEO)の佐々木勉氏は、「主力事業のMDMに加えて、新しいビジネスやM&Aなどによって目標を達成させる」と意気込みを語った。スマートデバイス市場の急速な拡大とともに、データのセキュリティやプライバシーなどの懸念からMDMの需要が増え続ける中、佐々木氏はどんな成長戦略を描いたのだろう。

 2001年に設立したアイキューブドシステムズは、受託ソフト開発からビジネスを始めた。しかし、ビジネスモデルの限界に気付いた佐々木氏はクラウドサービスの活用へとかじを切った。

 その1つがモバイルデバイスを遠隔管理するMDMで、2011年ごろに販売を開始し、現在までに累計約6000社が導入。「国内トップシェア」と、佐々木氏が自負するまでに成長した。携帯電話販売会社など数十社と代理店契約を結ぶほか、約2年前からNTTドコモにOEM供給を開始している。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大によるリモートワークが増え、さらに生徒・児童1人1台の端末環境を実現する「GIGAスクール構想」の広がりなどによって、MDMの販売は大きく伸びたという。佐々木氏によれば、国内のMDM市場は年率10%成長だが、アイキューブドシステムズはセキュリティや運用などの機能強化を図り、それを上回る15%成長を遂げている。

アイキューブドシステムズ 佐々木氏
アイキューブドシステムズ 佐々木氏

 こうした中、同社は2020年7月に東証マザーズに上場する。実は2020年4月の上場を目指したものの、COVID-19の影響から7月に延期になった。目的も当初の資金調達より、知名度アップを重点にした。「ガバナンスやコンプライアンスをしっかりした強い会社にする」と、佐々木氏は信用を大事にする。従業員も上場時の約70人から120人超に増やした。

 その一環で、同社では上場後に役務サービスを始めた。佐々木氏によると、人手不足のユーザー企業が少なくないため、アイキューブドシステムズの従業員がMDMの運用や導入を支援することにした。「便利にするためにさまざまな機能を開発するが、開発が間に合わないことがある。その足りない部分を人的にサポートする」のだという。役務サービスの売り上げは目下のところ総売り上げの数%程度だが、顧客満足度を上げるためにも欠かせないだろう。

 加えて、中期目標も策定した。2026年6月期に売上高50億円にする目標は、MDMだけでは届かない。同社のMDM事業の成長は年率15%程度を見込んでいるため、プラス10%分をM&Aと新規ビジネスなどで達成させるという。M&Aは、2023年10月にベトナムのソフト開発会社10KN JOINT STOCK COMPANYの子会社化を発表した。従業員約30人のオフショア開発拠点にし、エンジニア不足が常態化している中で、足りない人材をベトナムで獲得するとしている。

 佐々木氏は、国内ソフト開発会社のM&Aも検討したが、エンジニアの定着率や技術要素、企業文化などの面からベトナム企業にしたという。福岡からベトナムへの直行便があり、泊まらず訪問できる利便性もあるという。「ベトナムのエンジニアの学習意欲はすさまじく、IT人材が多い」こともあり、買収したベトナム企業のIT人材を増やす計画だ。1つの策は、本社のハノイからダナン、ホーチミンと拠点を広げること。「まずはベトナムをしっかり育てる」と同氏は話す。

 もう1つの新規ビジネスは、目下のところ投資の段階だという。2021年11月に設立したコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)のアイキューブドベンチャーズが10億円の投資ファンドを用意し、課題解決にアイキューブドシステムズのエンジニアリングスキルを生かせないかと可能性を探っている。

 これまでに、宮崎県に本社を構えるスマート農業を展開するAGRISTなど数社に投資している。この中には、請求書受領サービスのペイトナーとメンターサポート付き習慣化プラットフォーム「Smart Habit」を提供するWizWeもある。佐々木氏は、「今はビジネスに直接関係はないが、興味深いビジネスを展開している。将来、グループに入ってくれるかもしれないし、投資からM&Aの話が舞い込むこともある」と話す。

 もちろんMDMの機能強化は怠らない。実は競合は減っている。佐々木氏によると、製品投入時は約60社あったが、今は数社程度になったという。しかし、3Gの携帯電話や病院などのPHPからスマートデバイスへの移行、生徒1人1台の環境の整備などによるMDMのさらなる需要拡大を期待できる。

 ベトナム、投資という種をまき、次なる成長を模索するアイキューブドシステムズはどんなサービスを生み出すだろう。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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