Amazon Web Services(AWS)は現地時間6月26日から2日間、年次イベント「AWS Summit Washington DC」を米国ワシントンD.C.で開催した。初日の基調講演では、Worldwide Public Sector担当 バイスプレジデントのDave Levy(デイブ・レヴィ)氏が、生成AIに関して公共領域に5000万ドルの投資を行うと発表した。
基調講演にはゲストスピーカーとして、米中央情報局(CIA)の人工知能イノベーション担当 ディレクターのLakshmi Raman氏や米陸軍 主席副次官補のYoung J. Bang氏が登壇し、AIサービスの活用事例や見解を述べた。
CIAのRaman氏
CIAは日々、幅広い問題に関して政策立案者に情報を提供するため、膨大な量のデータや情報に目を通し、洞察(インサイト)を導き出している。CIAでは、情報のトリアージ(緊急度の判定)にAIを活用しているという。例えば、翻訳やテープ起こし、アナリストがデータを迅速に処理するために必要なあらゆる種類の処理を行う。
また、CIAは情報通信研究機構(IC)のオープンソースを収集しており、これらの情報を分類し、トリアージし、データを検索・発見し、自然言語によるクエリーを行うために生成AIを活用してきた。ほかにも、アイデアの発想やブレーンストーミングの支援などにも生成AIを活用しているという。
Raman氏は、「生成AIは私たちが仕事をするのに必要な、人間と機械のチームワークを促進するための道具だと考えている」という。生成AIは業務の迅速化や人間の判断をサポートしてくれるテクノロジーで、今後のミッションを達成する上で大きなポテンシャルを秘めていると言及した。
一方で、Raman氏は「私たちはリスクについても考えている」と言い、リスクの一つとして「ユーザーがどのようにしてテクノロジーを安全に信頼できる形で利用できるかということ。つまり、ユーザーが出力を見て、その正確さと偏りのなさを検証できるようにすること。私たちはOffice of Privacy and Civil Liberties(OPCL)と協力し、その活動に取り組んでいる」と説明した。
また同氏は、米国にとって主要な敵対国/競合国がどのようにAIにリソースを投入しており、米国にどのような影響をもたらしているかを述べた。同氏は、中国について「彼らはテクノロジーに関して科学技術のリーダーになろうとしている。彼らはその力を政治や経済、軍事の利益のために利用しようとしている」との見解を示す。
中国では、人材確保に加え、知的財産の獲得や投資、大学機関との協力に注力しており、AIを含むテクノロジーに数十億から数百ドルを投資しているという。特に音声/画像認識、映像分析の分野では既にリーダー的な存在となっており、米国は危機感を持っているとした。
人材の観点では、2022年の時点で中国はAIに特化した労働者が約100万人、ロシアでは2023年には約27万人のAIに特化した労働者を抱えているという。加えて、中国と協力関係を強めるイランもAIで世界のリーダーになろうとしている。
CIAでも優秀な人材の確保に力を注いでいる。積極的なオンボーディングとトレーニングプログラムを用意しており、新入社員は充実した教育を受けることができるという。AIの分野では、データサイエンティストやデータアナリスト、データエンジニアなどのキャリアを設置している。
Raman氏は、「初日から困難な課題に取り組むことを期待しているわけではない。私たちは、成長志向を期待しているし、挑戦的な問題に取り組むことが好きな人材に来てほしい。私たちが求めるのは、やり遂げる姿勢を持った人材だ」と人材確保に向けた積極的な姿勢を見せた。
陸軍のBang氏
米陸軍は、海軍や空軍と比べ、従業員や兵士が生み出すデータが多く、アルゴリズムやAIを非常に多く消費しているという。
Assistant Secretary of the Army for Acquisition, Logistics and Technology(ASAALT)の主席副議長でもあるBang氏は、3月にASA(ALT)のAI実装計画を発表している。この計画では、陸軍全体でAIに対する一貫したアプローチを提供し、100~500日の実行期間内に複数の取り組みを調整し、テクノロジーが進化するにつれてソリューションに貢献するためのベースラインを確立する。
この取り組みに際し、初期のAI多層防御フレームワーク「DefendAI」を用意し、サードパーティーのアルゴリズムに関連するリスクに対処し、業界のAIテクノロジー運用を支援するという。
陸軍では、推論や再学習を行うためにデータにアクセスするが、民間企業と比べると優れたアルゴリズムを開発できないのだという。Bang氏は、「産業界は私たちよりも優れた技術を開発している。だからこそパートナーシップを築きたい。私たちは、サードパーティーが作成したアルゴリズムを迅速に採用したい」と説明した。
同氏は逆三角形のフレームワークを示し、「システム設計にはリスクが伴う。私たちは産業界が提供するシステムが信頼できるものかを確かめたい。例えば、クローズドシステムやサンドボックスであれば、より低いレベルのリスク識別と制御を行う。しかし、もう少し複雑なものやクリティカルなシステムの場合、識別する必要があるリスクが一定レベル以上になる。今、私たちが業界の助けを必要としているのはこの点だ」と説明した。
AI多層防御フレームワーク「DefendAI」
同氏はこの課題を産業界への情報提供依頼書(RFI)として出すつもりだとし、「現在想定されているブロックの中で、トロイの木馬などのリスクを特定してほしい。そして、サードパーティーが作成したアルゴリズムを採用する手助けをしてほしい」と訴えた。
(取材協力:アマゾン ウェブ サービス ジャパン)