本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、ウイングアーク1st 取締役執行役員事業統括担当 兼 CTOの島澤甲氏と、PwCコンサルティング 執行役員 パートナーの村上純一氏の「明言」を紹介する。
「業務において生成AIの存在をユーザーに意識させないようにしたい」
(ウイングアーク1st 取締役執行役員事業統括担当 兼 CTOの島澤甲氏)
ウイングアーク1st 取締役執行役員事業統括担当 兼 CTOの島澤甲氏
ウイングアーク1stは先頃、同社が開発する主要製品全てに生成AIを適用するとともに、AIプラットフォーム「dejiren(デジレン)」を新たに提供すると発表した。冒頭の発言は、同社の最高技術責任者(CTO)を務める島澤氏がその発表会見で、業務アプリケーションにおける生成AIの在り方について述べたものである。
同社では主要製品全てに生成AIを適用することにより、ユーザーは帳票やデータ活用分野における業務で、自動化、効率化を実現するだけでなく、データ分析の精度向上、業務負担の軽減やトレーニング教育コストの削減など、生成AIのメリットを享受できるとしている(表1)。
表1:各製品の生成AIへの適用内容(出典:ウイングアーク1stの発表資料)
また、同社がこれまでコミュニケーションプラットフォームとして提供してきたdejirenは、AIプラットフォームとして大幅に機能を刷新し、大規模言語モデル(LLM)のインターフェースとして提供を開始するという。
さらに詳しい発表内容については発表資料をご覧いただくとして、ここでは島澤氏の冒頭の発言に注目したい。同氏は説明の最初に図1を示しながら、次のように述べた。
図1:生成AIを業務に活用していく上でのユーザーにとっての障壁(出典:ウイングアーク1stの会見資料)
「生成AIを業務に活用していく上でユーザーにとって障壁となっているのが、プロンプトエンジニアリングやシステムの連携だ。プロンプトをエンジニアリングするというのは、実はなかなか難しい。生成AIと言っても既に世の中には多くの種類が存在し、さらに新しいサービスも続々と出現している。そうした状況にどう対応していけばよいのか。また、システム連携においてネックになるのは、システムごとにデータのフォーマットが異なるケースが少なくないことだ。このフォーマットの違いが生成AIを使う際にも影響を及ぼす可能性がある」
島澤氏によると、同社ではこうした問題を解決するために、次のような取り組みに注力しているという(図2)。
図2:技術スタックの内容(出典:ウイングアーク1stの会見資料)
「そうした問題解決のために、私たちは今、生成AIをさまざまな業務で柔軟に使えるようにする技術スタックを提供すべく、その開発に全力を挙げている。図(図2)にLevelとして0、1、2とあるのがそれだ。下段のLevel 0は単純に生成AIをダイレクトに使うレベル、中段のLevel 1は少しだけプロンプトによる指示を書くレベル、上段のLevel 2は生成AIの存在を感じないというレベルだ。そうした形で生成AIの利用形態を段階的に設定し、ユーザーニーズに対応していきたい。業務における生成AI利用の目指すところは、生成AIの存在をユーザーに意識させないようにすることというのが当社の考えだ」
冒頭の発言は、このコメントの最後の部分から抜粋したものだ。業務アプリにおける生成AIの在り方として、非常に重要なポイントではないだろうか。
日本では国産の業務アプリが、主要分野において外資系製品・サービスの陰に隠れてしまいがちだが、そうした中でウイングアーク1stは帳票およびデータ活用分野で長年にわたって確固たる存在感を示してきた。島澤氏の「生成AIの存在をユーザーに意識させないようにする」との言葉も、そうした実績に裏打ちされた「覚悟」のように感じ取れた。
とりわけ、筆者はかねて「MotionBoard」に注目し、幾度かユーザー取材も行ってその効果のほどを目の当たりにしてきた。生成AIとどんな「化学反応」を起こすのか、注目したい。