さらなるシステム刷新、取り組みのポイントは
紺野氏が今後目指すのは、さらなる業務の効率化や、同社の活力を一層高めていくためのクラウドなどの活用だ。
業務効率化では、PCのリプレースに合わせてモバイルノートPCと「Microsoft 365」へ順次切り替え、機動力をアップさせている。携帯電話も、以前は会社で支給していなかったが、今では内線通話が可能なIPフォンを導入し、通話コストをあまり気にせず、手軽に連絡が取れるようになった。
インフラ面では、広い敷地内のネットワークを無線LANに切り替えている最中で、紺野氏が管理している社内のサーバー関連も2024年度中に「Microsoft Azure」へ移行する予定だという。図面データを保存するストレージも全面的にBoxに移行させるという。
「実は、30人強の規模であるにも関わらず以前に『Active Directory』を購入しており、これもほとんど活用されていませんでした。今後は新しい『Entra ID』に切り替え、ここで認証を行ってクラウドのシステムを利用できるようにしていきます。社内のシステムを管理している暇はありませんし、社外に出したいと考えています」(紺野氏)

日鉄工営のITシステムインフラ環境(2024年11月時点、日鉄工営提供)
日鉄工営の5年にわたるシステム刷新の取り組みは、一見すると、広範かつ規模も大きく、それでいてスピーディーに実行されてきたと映る。だが紺野氏は、中小企業の課題は基本的にシンプルであり、問題を一つ一つ解決してきたに過ぎないと振り返る。「やらなければならないことを放っておけば、ただ時間ばかり過ぎてしまいます。定着にも時間がかかるので、ある程度できることをやってきたという感覚だけですね」(紺野氏)
ITを活用した中小企業の変革は、壮大な目標を立てたり革新的で高度なシステムを導入したりというより、むしろ現実的かつ適切な方法を選択しながら、現場に定着するまでチームプレーで取り組むことが成功のポイントになるようだ。同社の場合は、紺野氏が経験を生かして現場に合う業務や制度を組み立てながらシステムの検討までをリードし、実際の導入から現場への定着までを企画業務部が連携する形で、働き方や会社の文化がより良い形に変革している。
当然ながら、システムはいったん導入すれば良いわけではなく、定着化を通じて、さらに活用していくための“コツ”や目標なども見えてくる。ここまで来ると、既存システムでその実現が難しいなら実現可能な新しいシステムを探し、もっと使いこなしていくということも難しくなくなるだろう。紺野氏は、そうした視点でシステムを選び、チームプレーを生かして各種のシステム刷新を1~2カ月ほどで可能にしているという。
また、業績面への効果も大きい。紺野氏によれば、全体的には、コロナ禍のさまざまな影響から売り上げが通常の4割近くにまで減少し、存続の危機も直面した。だが、コロナ禍後の市況を受けて業績は上向いているといい、システムの刷新と定着化が特に利益率の大幅な改善に貢献しているそうだ。
「若い人をもっと採用していきたいですね。中小企業は経営に不安な面もありますが、当社はそれではいけないと考えています。賞与も上げることができていますし、皆でシステムをしっかりと活用していくことが給与のアップにつながるという効果が出てきていると思います」(紺野氏)