中小企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を促進しようと、政府と民間企業による新施策がそれぞれ動き出した。いずれも大きなインパクトのある取り組みではないかと感じたので内容を紹介し、中小企業のDXについて考察したい。
政府が今後5年間集中的に中小企業DX後押しへ
まず、政府の新施策とは、3月28日に首相官邸で開かれた「新しい資本主義実現会議」で、中小企業による経営改革を促進するための取り組みを示したものだ。石破茂首相はその会議での議論を踏まえ、次のように述べた。

首相官邸で開かれた「新しい資本主義実現会議」の様子(出典:首相官邸ホームページ)
「我が国の雇用の7割を占める中小企業が、『コストカット型』の経営から、積極的な賃上げにより人材を確保し、投資を通じて生産性の向上を実現し、それにより企業収益を拡大するという『成長型』の経営へと、変革を進めることができるよう、その後押しに集中的に取り組んでいく」
その上で、新たな施策のテーマとして「中小企業の生産性向上」を挙げ、取り組み内容について次のように述べた。
「深刻な人手不足に直面し、最低賃金引き上げによる影響も見込まれるサービス業などの12業種について、5月をめどに業種別の『省力化投資促進プラン』を策定し、2029年までの5年間を集中取り組み期間として、業種ごとに生産性向上の目標を定め、その実現に向けてきめ細かな支援策を充実し、全国津々浦々の支援体制の整備に取り組む」
その省力化投資の対象の相当程度がDXの領域になる見込みだ。政府はこれまでも中小企業向けのIT投資を支援してきたが、生産性向上へAIが強力なデジタル技術として寄与するタイミングにおいてのさらなる支援策は、中小企業のDX促進へ効果的な施策となりそうだ。
一方、民間企業による新施策とは、中小企業向けの会計をはじめとしたバックオフィス業務向けソフトウェアを提供する弥生が4月8日に発表し、提供開始した新サービスのことだ。この分野を長年にわたってリードしてきた同社が満を持して投入した戦略商品ということで、中小企業のDXに大きな弾みがつくのではないかというのが、筆者の見立てだ。
新サービスは、会計業務を中心としたクラウドサービス「弥生会計Next」。会計業務に限らず請求業務や経費精算など会計周辺のバックオフィス領域のサービスやデータがシームレスにつながることによる完全自動化と、同社に蓄積された豊富なデータをテクノロジーと掛け合わせることで実現できる経営支援によって、事業成長に不可欠な経営プラットフォームを目指すとしている。
また、既存のクラウドサービス「弥生給与Next」においても新たに勤怠管理や労務管理の機能を拡張し、給与計算・年末調整と合わせて一括管理できる強化版の提供を開始した。いずれも詳細はリンク先の発表資料をご覧いただくとして、本稿では同社 代表取締役 社長執行役員 兼 最高経営責任者(CEO)の武藤健一郎氏が発表会見で述べていた新サービス投入の背景についての話に注目した。

左から、弥生 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの武藤健一郎氏と同社 次世代本部 次世代戦略部 部長の広沢義和氏