「あなたは、この会社のお金を3億2000万ドルもこのプロジェクトに投資したわけですが、それでどんな見返りがあるのですか」--(「チェンジ・ザ・ルール!」Eliyahu M. Goldratt著、三本木亮訳、ダイヤモンド社刊より)
この連載の初回で紹介した小説「チェンジ・ザ・ルール!」は、ERPシステムを開発するベンダー、システムインテグレーター、ERPを導入したユーザー企業の重役たちが、IT投資に見合った利益をユーザー企業が得るために必要な「ルールの変更」にいかに取り組んでいくかを描いた物語である。
冒頭の一文は、ユーザー企業のCEOが、導入中のERPが生む投資対効果について取締役会で説明を迫られたことを、ERPベンダーとSIerのCEOに述懐する場面である。経営の視点を表す意見として象徴的だと思う。ERPにとって、しばしば問われるのが投資に対する「見返り」であり、どれだけの「利益」が得られるかだ。
キーワードは「統合」「リアルタイム」「一元化」
「ERPについて話すときには、相手によって言葉を変える必要がある」
ITRのプリンシパル・アナリストである浅利浩一氏はそう話す。浅利氏自身、ユーザーの立場でERP導入を担当し、ERPの価値を社内にどう説明するかで悩んだ経験があるという。経営者への説明とユーザーへの説明、手組みのシステムを持つIT部門への説明と、使う言葉を変えなければ話が通じず苦労したという。
「しかも、誰に説明するとしても、キーワードは『統合』『リアルタイム』『一元化』の3つしかない」と浅利氏は言う。「ビジネスプロセス」といった言葉は後から付随的に出てくるものだという。しかし、経営者に「統合」と話しても、「統合に何の意味があるのか」と問われるのがオチだ。しかも、この3つのキーワードが一体化しているところに本当の意味がある。
たとえば、物流と会計が一体化したシステムになっているから「統合」業務なのであり、販売伝票が起こると売掛金等のデータが起き、同時にそれが勘定元帳に転記されるから「リアルタイム」なのだ。そして、それらのデータが一貫して蓄積されているから「一元化」と表現される。
浅利氏は「あたかも1つの事象を3つの視点から見ている感じだった」と言う。3つのキーワードがERPの価値だと話してみても、その意味を理解してもらうのは難しい。だからこそ、冒頭の一文のような質問が、ERPを導入しようとする企業の取締役会では繰り返されることになる。