強い現場を実現する“見える化”:“見える化”を支援するテクノロジ(1)

山下竜大(編集部) 2006年03月23日 07時00分

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 2006年に入り、新聞や雑誌、フリーペパーの記事など、またセミナーやイベントの講演など、さまざまなところで“見える化”という言葉を目に、耳にする機会が多くなってきた。なぜ今“見える化”が注目されるのか。また、“見える化”とは、何であり、どのような効果をもたらしてくれるのだろうか。

 “見える化”をひと言でいえば、ビジネスにおける問題を常に見えるようにしておくことで、問題が発生してもすぐに解決できる環境を実現すると共に、問題が発生しにくい環境を実現するための取り組みだ。“見える化”の実現により、コスト上の無駄や改善の余地がどこにあるかなどを明確にし、強い企業を実現できる。

強いトヨタを作り上げた“見える化”

 “見える化”は、何も新しい言葉ではない。そもそも“見える化”は、トヨタ自動車が企業改革における取り組みのひとつとして導入したことで広く知られている。トヨタの“見える化”で有名なのが「あんどん」方式や「かんばん」方式と呼ばれるものだ。

 トヨタの生産ラインでは、問題が発生すると現場の担当者が「あんどん」を点灯することで、問題の発生を早期に知らせ、迅速に対応できるようになっている。また「かんばん」と呼ばれる仕組みでは、必要な部品や数量を書いた札(かんばん)を生産工程でまわしていくことで、必要な部品を、必要なときに、必要なだけ調達できる、ムダのないJIT(ジャスト・イン・タイム)生産を実現できる。

 トヨタを強い企業にした要因のひとつが“見える化”だが、この“見える化”は生産の現場だけで有効なわけではない。たとえば、システム開発の現場を“見える化”することで、より効率的で高品質なアプリケーション構築が可能になるし、もっと身近に自分のやるべき仕事を“見える化”することで、より効率的かつ効果的に仕事を片付けることができるようになる。

「見える化−強い企業をつくる“見える”仕組み」

 このように“見える化”が製造業の現場だけでなく、あらゆるビジネスの現場で注目されるようになった要因のひとつに、ローランド・ベルガー取締役会長 早稲田大学大学院 教授である遠藤功氏の著書である「見える化−強い企業をつくる“見える”仕組み」(2005年10月発刊/東洋経済新報社)が挙げられる。

 遠藤氏は“見える化”に注目するようになったきっかけを、「私の問題意識として、日本企業がもう一度原点に戻り、現場の競争力を高めて行かなければならないというのが根底にある。そのためには、“見える化”を避けて通れなかったことから、このテーマに取り組みはじめた」と話す。

 “見える化”という言葉は、一見誰にでも分かる言葉であるために、各自の解釈により独自の取り組みが行われていることが多い。遠藤氏は、「独自の取り組みが悪いわけではないが、本質的な部分を勘違いしている取り組みが多い」と話している。

 「“見える化”というコンセプトは、分かりやすそうで、実は奥の深いもの。本質を理解することなく、ただ闇雲に現場レベルで推進しても“見える化”を定着させることは難しい」と遠藤氏。それでは“見える化”の本質とは、いったい何であろうか。

身のまわりの“見える化”の例

 “見える化”の本質を遠藤氏は、「共通の認識が持てること」と言う。

 身のまわりで“見える化”を考えて見ると、たとえば信号機は、赤、黄、青という3つの色だけで、すべての交通を制御する非常に高度な“見える化”の例といえる。信号機では、誰もが、赤は止まれ、黄色は注意、青は進めという共通の認識を持っていることからたった3色で交通を制御できる。

 また、野球場のスコアボードも“見える化”の好例といえる。スコアボードがあることで、今何イニングなのか、得点や打順、守備位置、アウトカウントなどはどうなっているのかなど、試合の状況を一目で把握することができる。これも野球のルールに対する共通の認識があることからスコアボードだけで試合の状況を把握することが可能になる。

 それでは会社の中には、信号機やスコアボードのような仕組みがあるだろうか?

 遠藤氏は、「あなたの業務上の問題は? となりの同僚は何を悩んでいるのか? ベテランはどんな知恵を持っているのか? 工場や営業所の問題は? 顧客の本音とは? このように企業の中は、実は見えているようで見えないことだらけ」と言う。

 「問題や異常がタイムリーに見えれば解決できる。人間は、目に見える問題は解決しようとする。見えないから解決できない」(遠藤氏)

 たとえばトヨタは、2004年3月期の純利益が1兆2000億円で、1年間に2300億円のコスト削減を実現している。この2300億円のコスト削減は、トヨタの現場の地道な改善提案活動により生み出されたものだ。業務の改善提案は、年間61万件提出され、そのうち91%は実行されているという。

 また花王は、これまで24年連続で増益を続けてきた。この要因のひとつとして同社では、1986年より企業全体でTCR(Total Creative Revolution)運動を続けており、その成果として年間150億円のコスト削減を実現している。さらに在庫金額は、1998年を1とした場合、2003年は0.6に、欠品率は1998年の0.12に対し2003年は0.04になっている。つまり在庫を4割削減し、欠品率を3分の1にしている。

 「トヨタが2300億円のコスト削減ができたのは問題が見えたから。花王がある製品の改良を25回も行ったのは、顧客のニーズが見えていたからだ。したがって、見えることこそが競争力の原点になる」(遠藤氏)

ローランド・ベルガー取締役会長 早稲田大学大学院 教授、遠藤功氏。

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