AppExchange上にて提供されるアプリケーションは、Salesforceが開発したものに限らない。Salesforceが得意とするCRM分野関連アプリケーションは同社の開発によるものが多いが、AppExchangeではセミナー運営を支援するようなマーケティングツールをはじめ、社内ブログ、人材採用管理、予算管理など、パートナー企業が開発したツールがすべてASPにて提供されている。
また、AppExchangeという単一プラットフォームを用意することで、複数のツールを結びつけてひとつのサービスとして提供する「マッシュアップ」も可能だ。例えば、Skype TechnologiesのVoIPサービスとSalesforceのアプリケーションを連携させた「Skypeカンファレンス」や、日本オプロの電子文書ソリューションとSalesforceを連携させた「e文書生成ソリューション for AppExchange」などがAppExchange上で利用できる。
1月のサービス発表当初におけるAppExchange上でのアプリケーションは、日本国内で20、全世界で約160となっていたが、現時点では日本国内で27、全世界で206のアプリケーションが提供されている。
AppExchangeで提供されるアプリケーションの価格はさまざまで、パートナー企業は価格を自由に設定することができる。Salesforceは、提供するアプリケーションの種類を増やすことで、サービスそのもののユーザー数を伸ばす考えだ。
ホスティングの負担
一方、SalesforceはAppExchange上のアプリケーションのホスティングをすべて無料で行っている。1月のインタビューにてRobinson氏は「ホスティングの有料化は考えていない」としていたが、アプリケーションが増えれば増えるほど、同社の負担は大きくなってしまう。現にSalesforceのシステムは、2005年12月より数回にわたって停止しており、ユーザーに不安を与えたことも事実だ。
Salesforceはこれまでにもデータセンターを拡張するなどして、可用性の向上に努めている。同社では、AppExchangeでサービスの範囲を拡大させてユーザー数を増やせば、サブスクリプション料の増加が見込めるため、無料でのホスティングが可能だとしている。
宇陀氏にホスティングの有料化の可能性について聞くと、「今は、オンデマンド型システムを浸透させるためにも、提供するアプリケーションのメニューが豊富であることが重要だ」として、有料化を否定したが、「可能性がないわけではない」とも述べている。「ヤフーが無料で提供していたオークションサービスを有料化した時も、多くのユーザーがすでに定着していたためユーザーが減ることはなかった。AppExchangeも十分に浸透した場合は、ホスティングを有料化することがあるかもしれない」(宇陀氏)
また宇陀氏は、システムが停止したことについて、「いい教訓になった。システムを止めないことが、いかに重要か再認識している。今後さらに可用性を高めることに力を入れ、新しい機能を追加すること以上にシステムを停止させないことを最優先課題とする」と述べた。
大手ソフトウェアベンダーもASP事業に参入
Salesforceが順調にユーザー数を伸ばしていることもあり、ここ数年の間にOracleや、Oracleに買収されたSiebel Systemsなどが「Oracle On Demand」「Siebel CRM OnDemand」といったサービスでオンデマンド型のASP事業に乗り出している。また、Microsoftが2005年12月に米国で発表した「Dynamics CRM」のアップデートでは、サブスクリプション方式の料金体系も用意されたほか(関連記事)、SAPも2006年2月にASP型のCRMサービスを発表している(関連記事、日本国内でも近日中に発表予定)。
こうしたソフトウェアベンダーの動きをSalesforceは驚異と感じないのであろうか。1月にRobinson氏と共に来日したSalesforceのテクノロジ統括責任者 Parker Harris氏は、大手ソフトウェアベンダーの動きについて、「すでに物理的なソフトウェア製品を抱えているため、ASP方式は既存の収益構造を覆すことになる。ソフトウェアの顧客ベースを崩さずにASPに参入することは困難で、サービスの範囲も限られたものになるだろう」と述べていた。
また、宇陀氏は、「大手が乗り出すことで認知度も上がる。彼らは、確実に成長が見込まれている市場に入ってくるのであって、Salesforceのシェアを奪おうと考えているわけではない。Salesforceにとっても、大手が参入することでより市場が活性化され、顧客ベースが拡大できるだろう」と述べ、成長が見込まれる同市場への大手の参入を前向きにとらえていた。