そこで、共用のための方策として、放射電力の抑制をはじめ、用途を国際輸送にかかわるものへ限定し、シールドを設置するなど運用面でのルール整備をあげた。近隣のアマチュア無線局にも当該周波数帯の利用を控えてもらうなどの協力が必要となりそうだ。
一方、高い市場性に注目が集まる950MHz帯アクティブタグシステムについて中村氏は、次世代近距離無線ネットワーク技術である「ZigBee」での利用を指摘する。ZigBeeはIEEE802.15.4として標準化され、すでに対応機器も登場している。周波数帯は、2.4GHz帯(16チャンネル)のほか、915MHz(10チャンネル、米国)、868MHz(1チャンネル、欧州)といくつの仕様が存在し、ビルオートメーションや家電機器制御、ファクトリーオートメーション、ホームオートメーションなど豊富な利用シーンが考えられる。
中村氏は、「センサーネットワークやRFID、他のモバイルサービスなど同一周波数帯を利用した省電力無線システムの連携も重要」と述べる。総務省では、ユビキタスネットワーク社会に向けた環境整備に向け、ウェブサイト上でパブリックコメントを募集するなどしている。
RFIDタグの低価格化に向けた技術開発「響プロジェクト」
RFIDの普及発展には、低価格で高品質なICタグを開発し、市場に安定供給することが絶対条件だ。これをクリアするために、経済産業省の研究開発委託事業としてスタートしたのが「響プロジェクト」である。
響プロジェクトは、開発コアチームとして、タグ用ICチップやアンテナ、インレット、そしてリーダ・ライタ用ICチップの技術開発に関する責任を担う中核企業と、その開発をサポートする協力企業で構成される。中核企業には日立製作所、ルネサステクノロジ、八木アンテナが、協力企業には大日本印刷、凸版印刷、NEC、富士通が参画した。

開発期間は2年。2004年8月の検討から設計、試作・評価、システム評価へと進み、2006年7月に最終報告をまとめた。試作は3次まで行っている。「開発当初はUHF帯が日本でまだ認可されていなかったこともあり、リーダ・ライタも含めて試作・評価を行った」と、日立製作所 情報・通信グループ トレーサビリティ・RFID事業部 副事業部長の中島洋氏は述べる。
1個当たり5円というコストにたどり着くには、「地道な取り組みを重ねた」と中島氏。最終的には、アルミニウム箔にICチップやアンテナを取り付けて打ち抜き形成するプレス金型による製造ラインで量産するに至った。チップの形状や大きさ、ラインを見直して、一般管理費用やインレット加工、ICチップ加工にともなう費用を圧縮、プロジェクト開始時には月産200万個で1個当たり約30円だったコストを、月産1億個で1個当たり5円にまで下げることに成功した。
ただ、5円はあくまでも原価であり、メーカー側の利益分を上乗せすると定価はもう少し高くならざるを得ない。しかし、タグの製造・販売で儲けるビジネスモデルの追求よりむしろ重要なのは、RFIDを活用したシステム開発やサービス構築に対する需要を喚起し、それに応えていくことだ。響プロジェクトでも、まずは市場創造と製品の普及を優先して、原価低減に取り組んでいる。
響プロジェクトには区切りがついたが、これでRFIDの開発が終わるわけではない。「コスト面での課題は解決に近づいているが、耐熱性や耐水性、小型化、水や金属などで囲まれている状況での読み取りなどに、なお改良の余地がある」と中島氏は指摘する。とはいえ、同氏によると年内には響プロジェクトでの結果をもとにRFIDの製品化を計画している。
国が進める実証実験などの成果は、公共の財産として位置づけられる。響プロジェクトで得られたノウハウに対する業界内外の関心も高い。こうした知財を利用すれば開発の効率化にもつながる。RFID普及の最大の課題であるコストの問題にもようやく光明が見えてきた。