岡野氏は岡野工業という従業員数人の町工場を経営しているが、携帯電話の小型化実現に貢献した人として知られている。
「岡野さんは深絞りの技術でリチウムイオン電池の箱を、1枚のつなぎ目のない板で作った人。これによって携帯電話の小型化が実現した。この深絞りの技術によって、万年筆のキャップも口紅の筒も1枚の板で作れるようになった。こうした町工場のモノづくりの力によって日本の産業が支えられている。たとえば車1台に300点の部品があると言われているが、すべてトヨタのような自動車メーカーが作っているのではなく、こうした部品のひとつひとつを町工場が作っており、これが日本を支えている」
そこで鳥越氏はさらに講演のテーマに迫り、日本は人材を輸出すべきだと語った。そしてそのキーとなるのはサービスだという。自動車の例で、日本が人材の国であり、サービスの国であることを紹介する。
「昔、日本のホンダの車が初めて米国へ輸出されたとき、買うのに2年待ち、3年待ちという状況だった。なぜか。日本の車にはサービスがあったからだ。米国では、車が故障すると多額の料金を請求されるのが当たり前だったが、ホンダは1年間のメンテナンスサービスをつけた。そもそも米国には“お客様”という発想がない。それに比べ、日本には“お客様は神様”という商いの精神がある。これを世界に広めるべきだ」
鳥越氏はこう言って、「これまで日本はODAを積極的に行ってきたが、それは役人だけの世界。こうした金脈より、人脈の方が強い。定年になったら子会社に出向するとか、趣味の世界で生きるというのではなく、日本のサービスを海外に輸出するべきだと思う。また日本は環境先進国でもある。この技術やノウハウも輸出する必要がある。日本は人材を輸出する、つまり、人材派遣国日本となるべきだ」と結論づけ、講演を終了した。