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実績と比較して、原価総額の見直しも必要
工事原価総額についてプロジェクト開始時点で見積もりを行ったとしても、その工事原価が開発を進める過程で変化することも大いに考えられる。プロジェクトの開発を進めるなかで開発を実施した期間に対応する見積もりの原価予算と原価実績を比較し、全体の進捗状況も考慮することで、全体として当初見積もっていた工事原価総額から見直しが必要かどうか検討することになる。
仮に、開発を実施した期間に対応する見積もりの原価予算と原価実績との間に乖離が生じ、たとえば、その期間における原価予算を大幅に超過した工数またはコストが発生しており、全体としても当初見込んでいた原価予算を大きく上回ってしまいそうな場合には、全体としての予算超過が明らかになった時点で、工事原価総額を見直す必要がある。実務上はどのタイミングでどの程度乖離があれば原価予算を見直すのかについて、各社ごとに運用の規程を設定し、そのルール通りに工事原価総額の見直しを行い、それを工事進行基準の計算に適切に織り込んでいく必要がある。その場合にも、内部統制を意識した、見積もりの見直しに関する承認フローの構築や履歴の保持も必要になることに注意したい。
また会計上、見積もりの変更があった場合には、その影響額は見積もりを変更した期に全て反映されることになる。たとえば、原価比例法で工事進捗度を算出する場合には、工事原価総額の見直しが行われると、進捗度の算定式の分母に影響を及ぼし、変更後の進捗から前期までに計上した工事収益額を差し引いた差額によって各期の工事収益の金額を算出することになる。工事進捗度を累積で計算し、差額で各期の工事収益を算出する、というところが大きなポイントだ。
組織でルール設定して、見積もりの標準化を
工事進行基準への対応にあたり、三つのポイントのうち、工事原価総額の合理的な見積もりについて頭を悩ませる担当者も多いのではないであろうか。IT業界やソフトウェア業界では、ざっくりとした仕様決定のみで開発がスタートするケースや、開発を進めながら追加要求や仕様詳細が決まるケースもある。また、工事原価総額はあくまで原価予算全体の見積もりであり、将来の予測も含まれる以上、結果として実績と乖離する場合もあるだろう。
たとえば、将来的に見積もりと実績が大きく乖離してしまった場合、前述のように適時に見積もりの見直しを反映させることは必須であるが、その時点での見積もりがはたして妥当であったのか、という点も合わせて問題になる。逆にいうと、結果として見積もりと実績が乖離してしまったとしても、当初の時点での見積もりが妥当であったことを示す必要があるのだ。このためにはどのような準備や対策が必要になるのであろうか。
まず、個人ではなく組織として一定水準の見積もりを行う必要がある。そのためには、個人の経験や勘に頼ることなく、組織としての精度の高い見積もりを行う“見積もりルール”を設定し、そのルール通りに見積もりを実施することだ。