プロジェクト開始でも受注額が未定--工事進行基準適用後は混乱の原因に(前編)

木村忠昭(アドライト) 2009年02月27日 08時00分

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 工事進行基準を適用するポイントは、プロジェクトの受注金額である「工事収益総額」、プロジェクトの原価予算となる「工事原価総額」、「決算日における工事進捗度」を合理性をもって見積もることにある。2009年4月から工事進行基準が原則適用となるが、そのためにはこれら三つのポイントを高い精度で見積もることができてはじめて「成果の確実性」が満たされ、工事進行基準を適用することができる。今回は、その中のひとつである「工事収益総額」に焦点を当て、対応のポイントを紹介していきたい。

工事収益総額に対する二つの要件

 工事収益総額とは、工事によって得られる収益の総額、つまりプロジェクトの受注額のことだ。工事進行基準では、各期の売上高を工事収益総額に進捗率を乗じて算出するので、工事収益総額の正確な把握は、適正な期間損益の計算のために不可欠となってくる。これがプロジェクト開始時点において確定していないと、各期の売上高を適切に見積もることができないため問題となる。

 「工事契約に関する会計基準」によると、工事収益総額を信頼性をもって見積もるための要件として、「完成見込みが確実であること」と「対価が契約で定められていること」という二つが定められている。「完成見込みが確実であること」とは、工事を完成させる十分な能力があり、かつ完成を妨げる環境要因が存在しないことが必要だ。また「対価が契約で定められていること」とは、契約の中に「対価の額」「対価の決済条件」「決済方法」に関する定めがあることが必要になる。これらを、実際のプロジェクト開発の事例に当てはめて考えてみよう。

 まずは、ひとつめの要件である「完成見込みが確実であること」について考えてみよう。プロジェクトを請け負った側に開発プロジェクトを完了させる能力があり、また開発プロジェクトの完了を妨げるような環境要因がないことを確認しておくことは、プロジェクト開発を進めるうえで当然の前提条件と言えるだろう。

 もし、工事進行基準を適用して完成前に売り上げを計上したプロジェクトが最後まで完成せず途中で頓挫してしまったとなると、会計上、それまでに計上した売上高が結果的に実現できないことになり大きな問題があるからだ。もっとも、プロジェクトが途中で頓挫するようなことがあっては、それまでの開発コストを回収できない危険性があり、企業の信頼性まで損ねてしまう場合もある。そう考えると「完成見込みが確実であること」という要件は、プロジェクト開発を進めるうえでの前提となるべき要素である。

“対価”はプロジェクトの前提

 次の要件である「対価が契約で定められていること」についてはどうだろうか。受注契約の金額を正確に見積もるためには、取引先の求める仕様を正確に把握し文面に落とし込み、書面で契約を交わすことが必要になる。これは、工事進行基準の適用のためのみならず、円滑な開発業務の完遂のためにも不可欠だ。

 仮に、書面での契約を取り交わさず、口頭での発注、あるいは要件を明確に定義しない発注で開発プロジェクトを受注し開発を進めてしまうと、いつまでたってもプロジェクトの検収が終わらず追加での開発工数が嵩んだり、プロジェクト終了後にいわれのない追加開発作業を押しつけられる危険がある。契約金額をはじめとした仕様の詳細を契約書に記載し正式な書面として取り交わしを行うことは、このようなリスクを回避し、プロジェクト実施中や完成後のトラブルを避けるためにも有用であるのだ。

 また、対価の金額を契約書に明記するとともに、決済条件や決済方法についても契約書の中できちんと確認しておくことが、プロジェクトを最後まで遂行し、その開発の契約金額を回収するうえでも欠かせないだろう。そうなると「対価が契約で定められていること」という、この要件についても、プロジェクト開発の前提となるべき要素ということができる。

 このように、工事進行基準適用のための「成果の確実性」を満たすために三つのポイントのうち、工事収益総額を信頼性をもって見積もること、つまり「完成見込みが確実であること」と「対価が契約で定められていること」という二つの要件については、会計基準への対応以前に、プロジェクト開発をスムーズに進めるうえで欠かすことのできない条件であるため、プロジェクト開発を行う企業にとっては経営上の大前提と言える。

図 図:工事収益総額の見積もり

(後編は3月6日掲載予定です)

木村氏
筆者紹介

木村忠昭(KIMURA Tadaaki)
株式会社アドライト代表取締役社長/公認会計士
東京大学大学院経済学研究科にて経営学(管理会計)を専攻し、修士号を取得。大学院卒業後、大手監査法人に入社し、株式公開支援業務・法定監査業務を担当する。
2008年、株式会社アドライトを創業。管理・会計・財務面での企業研修プログラムの提供をはじめとする経営コンサルティングなどを展開している。

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