その見積もりルール通りに見積もりが実施されており、ルール自体も妥当であれば、外部に対して客観的に工事原価総額の見積もりの合理性を示すことができる。つまり、工事進行基準を適用するための社内管理体制構築の準備は、外部に対して見積もりの合理性を示すために必要なのだ。
そのためには、まずは見積もりルールを設定して、「見積もりの標準化」を徹底することにある。見積もりの標準化にあたっては、前回も紹介した一般的な大型プロジェクト開発の場合には経済産業省から公表されている「情報システム・モデル取引・契約書」(2007)や過去の開発プロジェクトなどのひな形を参考にしながら、業界や企業ごとの特徴を反映させた会社の実態に即したルールを決めることが必要だ。これらの対応と合わせて、過去の見積もりの計算方法や根拠データを履歴として保存しておき、その見積もりが会社の見積もりルールに則り適切に承認された見積もり数値であったことが後から確認できる体制も不可欠となるだろう。
いずれにしても、プロジェクトごとの工事原価総額の合理的な見積もりとは、各プロジェクトから最終的にいくらの利益が出るかを高い精度で予測するために欠かせないものであり、先読みの企業経営を行い意思決定を行う上でも重要な経営課題となる。今回のポイントである工事原価総額についても、前回取り上げた工事収益総額の合理的な見積もりと同様、会計基準への対応もさることながら、健全な企業経営のために欠かせない要素と言えるだろう。
今回は、工事進行基準への対応のための大きなハードルとなる工事原価総額の合理的な見積もりについて、基準上の要件と対応の留意点、また実務上のポイントとなる「見積もりの標準化」についても触れながら紹介した。次回は、三つのポイントのうちの「工事進捗度」にスポットをあて、工事進捗度を見積もるための手法について、実務上の対応にも触れながら紹介していきたい。
筆者紹介
木村忠昭(KIMURA Tadaaki)
株式会社アドライト代表取締役社長/公認会計士
東京大学大学院経済学研究科にて経営学(管理会計)を専攻し、修士号を取得。大学院卒業後、大手監査法人に入社し、株式公開支援業務・法定監査業務を担当する。
2008年、株式会社アドライトを創業。管理・会計・財務面での企業研修プログラムの提供をはじめとする経営コンサルティングなどを展開している。