税金の支払いのためには、しっかりとした会計処理が欠かせない。経費ひとつ取っても、何のために使ったのか、それは税務上どのように扱われるのかということを意識するようになる。経費の考え方は、税務上の認識とは別に、会社の在り方を映す。是非はともかく、会社を公器とするか、私器とするかを映す。
余談であるが、当時からお世話になっている税理士先生からは、「節税を意識するな、事業の発展に集中しろ、それが経営者の仕事だ」と教えられた。心に刻んでいる言葉の一つである。
会計上の利益は、さまざまな会計技術を使って測定される。中でも、固定資産の減価償却という会計技術は会計に馴染みのない人間にとっては衝撃的である。
キャッシュはまとめて出て行っても、実際に利用するだろう期間の内、使った期間分のみ費用と認識する技術は、実際の現金収支がマイナスであっても、会計上は黒字を計上することで、不足するキャッシュフロー(C/F)はその資産を担保に現金借入で賄うという芸当ができるようになる。大きな設備投資を必要とする製造業にとっては、事業を推進するために大変重要な技術である。ただし、リスクを抱えることにもなる。
経営は“バクチ”ではない
事業にリスクはつきものだが、相応の覚悟が必要である。かつて、本田技研の創業者本田宗一郎さんが資本金の何十倍もの設備投資を行ったときに、「会社が潰れても、日本にこれだけ素晴らしい機械が残ったと考えれば、それでいい」(意訳)と言ったという話は、個人的にも大変好きな話である。会社を超えた、社会という大きな視点での覚悟を感じることができる。
しかし、こういった話に憧れを持っていたとしても、なかなか真似することはできない。本田さんがそうであったように、事業において夢を語るには、徹底したリアリストである側面を併せ持つことが欠かせない。経営は“バクチ”ではない。
損益計算書とキャッシュフロー
会計上の利益の話に戻すが、現実には現金収支のバランス感覚を養っておけば、会計技術を使って資金調達を行う危険性を理解できる。つまり、現金収支と会計上の収支バランスを取っていれば、そうそう間違いを起こさない。
一方、会計上の利益と現金収支の乖離が大きくなっている場合は要注意である。経営上には将来の利益マイナス要因と認識しなければならないものが、資産という形で、費用化されずにどこか(貸借対照表:B/S)に棚上げされていることを意味する。
会計上の利益は、損益計算書、つまりP/Lで表されるものだが、P/Lだけを見て経営することの危険性は、C/Fとの乖離によって認識できる。「資金繰り表」と「キャッシュフロー表」は作成方法が異なるが、会計上の差異を取り除いてリアルな経済実態を表現するという意味では、ほぼ同じ機能を持つ。税金と密接に関係するP/Lが会社の会計情報の中心となり、資金繰りへの危機感が小さくなるにつれ、内部管理用の資金繰り表への関心が薄くなることを、公式な財務諸表の一つであるキャッシュフロー表によって補完することになる。
なお、一時話題となった「キャッシュフロー経営」とは、将来にわたって獲得できる利益をキャッシュベースで考えることで、真の事業価値を認識するというものである。キャッシュフロー経営の論点も、結局は本当の儲けがP/Lだけでは認識できないという問題へのソリューションである。