8月5日、東芝社長の佐々木則夫氏は、社長就任以来、初めて報道関係者、アナリストを対象とする経営方針説明会を開催した。内容は、「最優先事項は、昨年の赤字の苦境から一瞬でも早く抜けだし、利益ある持続的成長へ向けて再発進すること」と、2008年度に途切れた成長戦略の軌道修正を明確にするものだった。
佐々木氏の口癖でもあるのだろうが、説明のなかでは、「しっかり」という言葉が何度も口をついて出た。社会インフラ事業出身らしい、慎重な姿勢の表れなのかもしれない。だが、東芝の中期計画は、「しっかり」という言葉とは別に、軌道修正後も意欲的なものであることには変わりはない。
最初の課題は、2009年度における1000億円の営業利益目標の必達。達成に向けては、3000億円規模の固定費削減、半導体事業をはじめとする課題事業における構造改革の推進により、「筋肉質な体質」(佐々木氏)への転換を図る。
2011年度を最終年度とする中期計画では、売上高8兆円、営業利益3500億円、営業利益率4.4%を打ち出した。2009年度から3カ年に渡る売上高年平均成長率は8.5%という高いものだ。
「この3カ年でしっかりとした財務基盤を確立し、景気変動や市況変化に影響されにくい、安定した収益基盤の構築を進める」と語る。
中核となるのは景気の変動を受けやすいデジタルプロダクツ事業ではなく、安定成長が見込める社会インフラ事業だ。2009年度には、最大規模の売上高を誇るデジタルプロダクツ事業を抜き去り、社会インフラ事業が最大規模に。売上高年平均成長率は9%、2011年度の営業利益率は6.5%となる。
デジタルプロダクツ事業から社会インフラ事業へと、最大売上高の事業がシフトするのは、デジタルプロダクツ事業出身の西田厚聰前社長から、社会インフラ事業出身の佐々木氏へバトンタッチしたことに、まさにダブる。
実は、各紙ではほとんど触れられていないが、今回の経営方針説明のなかで、佐々木社長はIT分野におけるエンタープライズ事業の取り組みにも言及している。
IT分野の取り組みでは、PC事業が同社の柱のひとつとなっているが、サーバ事業は主力ではないため、これまで経営方針説明や決算発表で取り上げられることはなかった。
今回の説明会で佐々木社長が、エンタープライズ事業に言及したのは、富士通から獲得したHDD事業を基盤に、2010年度にはエンタープライズ向けストレージ製品を開発し、市場投入する計画があるからだ。
「2015年度までのサーバ市場全体の年平均成長率は21%と高い。ストレージ事業の展開は、従来はテレビ、PC、ハイビジョンレコーダ、モバイル機器などのコンシューマー向け製品に留まっていたが、富士通から獲得したノウハウを生かすことで、サーバやストレージサーバなどを投入できる。サーバ市場の大きな成長をしっかりと捉え、エンタープライズ分野における事業拡大を図る」とする。
HDDだけに留まらず、SSDにおいてもエンタープライズ市場をターゲットにするほか、同社が得意とするNAND技術との融合も図っていくことになる。
東芝では、IAサーバとして「MAGNIA(マグニア)シリーズ」を製品化しているが、メインフレーム、オフコンの撤退を繰り返してきた経緯もあり、IAサーバ事業の規模は縮小している。そして、エンタープライズ事業を強化するには、東芝情報機器や東芝ソリューションといった情報子会社の再強化も求められることになるだろう。
モノづくりの体制構築とともに、エンタープライズ事業を成長させるために、モノをどう流すか(流通させるか)の仕組みについても、早急な強化が必要となるだろう。