ところで「スマートなワークスタイル」とは何か
基調講演ではまず、日本IBM執行役員、開発製造スマーター・プラネット技術推進担当の丸山宏氏が登壇。「競争ではなく協調が求められる時代を見据えた『スマート』なワーク・スタイルとそれを支えるIT」と題した講演を行った。

丸山氏は冒頭、Thomas Friedman氏の著作「フラット化する世界」を引き合いに、インターネットなど通信技術の発展や、中国・インドなどの経済成長を背景に“世界経済の一体化(フラット化)”が進んでいる点に言及。「フラット化した世界では、個別の企業活動が効率化される半面、複雑化も進み、より大きな規模で見た場合に『無駄』な部分が出てきている」と指摘した。その例として、米国では「手書き」の処方せんを原因とする、220万件の医療ミスが毎年発生しているほか、流通プロセスの複雑化によって輸送のためのガソリンの無駄な消費や、年間480億ドル相当の廃棄食品が発生しているという現状を示した。
経済活動と同様に、「イノベーション(知的活動による革新)」のあり方も、より「オープン」「コラボレーティブ」「グローバル」な方向へ進みつつあるとする。
IBMでは、世界中の有識者を集めて、現在の社会が抱える課題について議論する「Global Innovation Outlook(GIO)」という活動を継続的に行っているが、その報告によれば、21世紀のイノベーションに不可欠な3つのテーマとして「標準的な情報交換方法(オープンスタンダード)」「エコシステム」「個人」が挙げられたという。
社会全体の価値観が、旧来の「株主至上主義」が生み出す「競争」から、「協調」による最適化を指向する「21世紀的価値観」とも呼べる新たな段階へと移ってきている中で、「企業」という存在そのものの定義が問い直されているとし、従来の階層的組織構造へのアンチテーゼとして、例えば「オンラインゲーム」の中で生まれるリーダーシップやメンバーの役割などに対する研究も行われていることを紹介した。
このような社会全体で起こっている変化と、その変化によって生まれる課題を、情報技術、つまりITによって解決へ導こうとする世界こそが、IBMのうたう「Smarter Planet」であると丸山氏は言う。