日本を含めた世界経済が底を打ち始めている。もちろん、今後の二番底という可能性を無視することはできないが、各種の経済統計は「100年に一度」という経済不況を抜けつつあることを示している。
明るさを取り戻しつつあるが、見通しはいまだ暗いと言わざるを得ない経済環境の中で、事業を展開する上でビジネスを支えるITシステムはどのように活用していけばいいのか――。そうした最高情報責任者(CIO)や情報システム部門長といったITリーダーに対する提言や議論の場としてガートナー ジャパンは、11月11〜13日に「Gartner Symposium/ITxpo 2009」を開催している。
- コストカットとリスクヘッジの「守勢」から、ビジネス成長とリスクテイクの「攻勢」へのバランスを取る
- IT支出最適化の経験を、成長への原資創出に活かす
- 視界不良、不確実の環境を「常態」として受け入れる
- ステークホルダーの信頼獲得のために、必要な情報の可視化、透明化を追求する
- 「個人」の影響力の利用機会を拡大する
- 変革・革新の種(タネ)を企業の「外」へ獲りに行く
- 顧客とリソースに関する「国内・海外」の境界を取り払う
今年のSymposium/ITxpoでチェアパーソンを務める山野井聡氏(ガートナー ジャパンのリサーチグループバイスプレジデント)は、ITリーダーに向けて2010年の行動原則を7つにまとめている(右図)。この7つの行動原則が現在の不況の影響を受けていることは、誰の目にも明らかだろう。
しかし、この不況で得られた経験、具体的にはシステム刷新プロジェクトや新規開発プロジェクトの凍結で得られた経験は、決してムダではなかったはずだ。つまり企業全体のIT投資の最適化はいかに進めればいいかが身をもって体験できたはずだからだ。
このIT投資最適化の具体策の一つとして山野井氏は「アプリケーションオーバーホール」を提言している。アプリケーションオーバーホールとは、簡単に言えば、企業で所有しているアプリケーションの棚卸しのことだ。いわば、アプリケーションポートフォリオの整理だ。
企業で所有しているアプリケーションを長期的視点で企業内でどのように使われているかを把握、整理することで余計なIT支出を抑えることが大きな目的だ。山野井氏によると「ある企業でアプリケーションの棚卸しをしてみると、10%ものアプリケーションが全く使われずに、ただライセンス料だけ支払われているという事例がある」と、アプリケーションオーバーホールの重要性を説明している。
現在の不況でのプロジェクト凍結は、いわば対処療法的なコスト削減策と指摘できるが、アプリケーションオーバーホールは、計画的、継続的なコスト削減策と言い表すことができるだろう。
パターンベースドストラテジーの重要性
Symposium/ITxpo 2009で来日している米Gartnerのシニアバイスプレジデント兼リサーチ部門最高責任者のPeter Sondergaard氏は、2010年のITリーダーへの指針として、「コンテキスト認識コンピューティング」(Context-Aware Computing:CAC)、「オペレーショナルテクノロジーズ」(Operational Technologies:OT)、「パターンベースドストラテジー」(Pattern-Based Strategy:PBS)――という3つが重要になってくるだろうと説明している。
CACは、エンドユーザーに関する情報を活用することでコミュニケーションの質を高めるというコンセプトだ。GPSなどによる位置情報やプレゼンス、社会的な属性、そのほかの周辺情報を利用してエンドユーザーの今のニーズを予見し、状況に応じてエンドユーザーの役に立つ機能を提供するものだとしている。OTは、システムの完全性を維持することを目的に、物理的資産とプロセスをリアルタイムに制御、監視するデバイス、センサー、ソフトウェアで構成される。オペレーショナルテクノロジーが成長することで、ビジネスプロセスとコントロールシステムを網羅する情報への統一的視点に対するニーズが高まると説明する。
そしてPBSは、市場の中にある“弱いシグナル”を検出して、早期のアクションを取って、市場の変化に素速く対応するという仕組みになる。この仕組みは、「探索→モデル化→適用」というサイクルから構成されることになる。
たとえば、携帯電話の利用パターンから解約リスクの高い顧客層を知りたいとして、通信会社がユーザーの利用履歴を調べて、その特徴となるデータを見つける。それをもとに、ユーザーの通話回数の増減、電話をかけたのにつながらなかった件数、その通信会社と競合会社の評判などを分析。その上で、解約リスクの高い顧客層へのキャンペーンを行ったり、あるいは基地局増設を検討したりといった手段を打つことができる。