目標値の5倍速い! 爆速「arrowhead」を生み出した富士通の技術と発想のヒミツ - (page 2)

大河原克行

2010-04-05 09:30

 異常個所に応じた三層の自動切り替えも、安定したシステム運用を実現するための仕掛けだという。また、レスポンス確保に特化したフロントエンドと、データ蓄積のためのバックエンドとに処理を分離。フロントエンドでは、ディスクアクセスをなくすとともに、機能分散された各サーバを非同期メッセージングで連携する。さらに、同一機能を持つサーバを並列に配置することで、スケールアウト型の拡張性を確保している。これも高速性、信頼性に大きく寄与しているポイントだ。非同期な処理連携を行うPrimesoftキューは、高速でメッセージ送信順に通番を払い出し、連続性を保証するとともに、業務のリカバリの際にも利用されることになる。

arrowheadのシステムアーキテクチャ arrowheadのシステムアーキテクチャ。フロントエンドでは、データ処理をインメモリで行うことでディスクアクセスをなくし高速性を実現している。(画像クリックで拡大表示)

ネットワークの問題も独自の技術と発想で解決

 高速アクセスを実現するにあたって、もうひとつのネックとなるのが「ネットワーク」である。ここではメモリアクセスのような決定的な回避策というものはないという。しかし、arrowheadはこの問題についても、これまでの考え方を打ち破る手法で解決している。

 「信頼性が高いが高速性で課題が残るTCPではなく、高速性を実現できる軽量なUDPプロトコルを採用した。ただし、信頼性を確保するため、富士通独自の送達確認技術を活用することにした。このプロトコルは、汎用的なものである必要がないため、独自の技術を採用するという判断をした。複数の受信インスタンスに対する多彩な送達確認パターンを実装し、局面に応じて使い分けるレイヤードACK技術を活用した」(橋詰氏)

 また、2系統に同一データを送信して、受信側が早く到着したデータを使用するという仕組みを使い、後からきたデータは削除するという処理も行っている。「同じデータを送信し、片方を捨てるというやり方は、一見無駄に見えるが、片方の系統に異常が発生してもデータを再送せずに業務を継続できる。ネットワーク異常時も性能劣化がない通信が実現できる」という。

 一方で、拡張性にも配慮している。arrowheadでは、安定した取引サービスを提供できるよう、常にピーク値の2倍のキャパシティを確保しているという。必要に応じての拡張は、1週間程度で実現。稼働時点でも、過去のピーク値の約4倍のキャパシティを確保できているという。

 パーティショニングによるデータの自由なノード配置を行うことで、CPUやメモリ不足時にはノードグループを追加して拡張できるようになるほか、突発的な呼量増加に対応する動的データ再配置機能によって、UAPサービスの一部資源を数分で予備UAPサービスに移動できる。例えば、1月4日のJALの取引量増加の際には、前場の動きを見て後場にはUAPサービスを独立したものに移動。4月1日の第一生命の上場の際にも、事前に独立したUAPサービスに定義しておくといった柔軟性のあるリソース配備を行っている。

 「Primesoft Serverの開発にあたっては、データベースやネットワークのエキスパートを集める一方、既存技術にとらわれない発想をコンセプトとした。メモリ上で冗長構成を実現するということ自体が既存技術にとらわれない発想といえる。専門的に深堀りしすぎると限界が生じる。既存技術にとらわれないことが、桁違いの高速性を実現することにつながった」(橋詰氏)

 arrowheadは、まさに現在におけるミッションクリティカルシステムの最高峰といえる。富士通の最先端技術が数多く注ぎ込まれていることに加え、既存の発想を越えた取り組みがあったことが、これまでにない高信頼、高可用、高速なシステムとして実を結んだのだ。

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