国内外を問わず、クラウドコンピューティングの潮流が強く大きくなってきているIT産業界にあって、クラウド化のための要素として、仮想化技術の重要度が増している。この領域で先導的立場にある米VMwareは、どのようなクラウド戦略をもち、それを進めようとしているのか。同社の最高マーケティング責任者(CMO)であるRick Jackson氏に聞いた。
クラウドはユビキタス
――VMwareの考えているクラウドの理想像とは何か。
クラウドは、コンピュータへのアプローチの仕方の一つであり、目的地ではない。クラウドの特性は、仮想化されたインフラ上にある管理可能なITリソースのプールを用い、これらのさまざまな資源をオンデマンドのサービスとして利用できるもので、どこのデータセンターにも構築することができる。
われわれが理想的と考えるクラウドは、一般には、“ハイブリッドクラウド”といわれているものだが、個人的には、“ユビキタスクラウド”との表現が気に入っている。なぜなら、クラウドはインターネットと同様で、どこにでもあり、インターオペラビリティー(相互運用性)も確立しているからだ。
1990年代にインターネットが普及し始めた頃、“インターネット対イントラネット”というような図式が語られたことがあるが、インターネットはどこにでもあるのが当たり前になっており、このような対置はいまや、まったく無意味になった。
最近ではクラウドも、かつてのインターネットと同じように“プライベートクラウド”や“パブリッククラウド”というような分類があるが、これも、ただ単にクラウドと表現されるようになるのではないか。ユビキタス化とインターオペラビリティーが背景にあるわけで、どのクラウドも単一のクラウドに変わりはない。
――日本企業のなかには、パブリッククラウドにセキュリティ面などの点で懸念を持っている向きがあるが。
インターネットも本格的な普及が始まる前には、何か怖いものだと思われていたことがある。かつては、公衆回線に依存したインターネットに重要なデータをのせることは非常に危険であるとの風潮があり、VPN(仮想私設網)や専用線などに投資されたりすることが少なくなかったが、公衆回線の使用に問題はなかった。
パブリッククラウドに対して懐疑的な見方があるのは、日本だけでないが、そこに革新をもたらすのはVMWareだといえる。クラウドについて、互換性、管理性、セキュリティ、この3つの問題を改善することが、われわれの役割であると考えている。いまのところ、これらの諸問題を完全に解決できる段階にまでは達していないのだが、そこにたどり着くための取り組みを始めている。
――ユビキタスなクラウド実現のために、VMwareは何を提供するか。
VMwareは、互換性、管理性、セキュリティ、この3つの要素のすべてを提供する。まず、仮想化ソフトのプラットフォームである「VMware vSphere」で互換性を確保できる。仮想化環境管理製品「VMware vCenter」もある。また、複数のクラウドの管理に向けた標準化や、セキュリティについても、当社は地道な活動をしている。技術革新とともに、標準化活動には、非常に積極的だ。
種類が異なるハイパーバイザ間で仮想マシンのイメージファイルを共有できるようにするための標準規格「OVF(Open Virtual Machine Format)」の策定が進められているわけだが、この定義にも注力しているとともに、われわれが作り出した「vCloud API」を標準化団体の「Distributed Management Task Force(DMTF)」に提出している。クラウドの相互運用についての技術には長く取り組んでおり、業界でも最先端にあると思っている。