ここ数年、世界の最高情報責任者(CIO)がビジネスプロセスの改善に大きく注目している。その状況について、GartnerのJohn Roberts氏は「ビジネスプロセスの改善には終わりがない」からだと説明する。
最終回となる今回は、ユーザー企業でのCIOの経験もある、Gartner CIOリサーチ バイスプレジデント兼最上級アナリストのJohn Roberts氏に話を伺った。これまで同様にガートナー ジャパンのエグゼクティブ プログラム(EXP)エグゼクティブ パートナーを務める小西一有氏にも同席してもらった。
ビジネス価値を生み出すクラウドへ
――Gartnerが毎年行っている世界のCIOに対する定点調査などから、CIOが抱える課題における最近の変化をどのように見ておられますか。
Roberts 2010年の調査結果を見て、まず非常に興味深かったのは、世界のCIOにおけるビジネス面での優先度トップ10を見ると、2010年と2009年の調査結果にほとんど変化がなかったということです。特に1位のビジネスプロセス改善と2位の企業コスト削減は、2年連続で変化がない。世界のCIOにとって、この2つの課題が引き続き重くのしかかっていることがうかがえます。
一方、テクノロジー面では大きな変化が見られました。なかでも目立ったのはクラウドコンピューティングで、2009年と2010年の優先度を比べると、世界では16位から2位へ、日本では10位から1位へと一気に上昇しています。多くのCIOが、これからクラウドにどう取り組んでいくかを考え始めたということでしょう。
テクノロジー面では、ビジネスインテリジェンス(BI)の優先度の変化も興味深い動きでした。特に世界では、BIは2009年まで5年間トップに挙げられていましたが、2010年は仮想化やクラウドに押されて5位まで後退してしまいました。
――BIはRobertsさんの専門分野の1つだとお聞きしています。BIにおける課題とは何ですか。
Roberts BIが難しいのは、BIツールを導入すれば、すぐさま“インテリジェントなビジネス”を実現できるというものではないところにあります。BIというテクノロジーを有効活用するために最も大事なのは、企業が描くビジネス戦略にBIをどう組み込んで、どのようなビジネス価値を生み出していくか、を明確にすることです。そこがまさにCIOの腕の見せ所になるのです。
小西 特に日本では、BIといえばBIツールのことだという認識がまだまだまかり通っているようです。ツールの前にまず、ビジネス戦略にBIをうまく組み込むことでビジネス価値を生み出せるという認識を、日本でも早急に広げていかなければならないと思っています。
――クラウドのお話がありましたが、BIと違ってクラウドはビジネス価値を生み出すよりも、コスト削減や利便性などのメリットに注目が集まっています。ただ、今後はクラウドもビジネス価値を生み出す存在になってくるように思われますが……。
Roberts 確かに、現時点でのクラウドの魅力は、コスト削減や利便性などにあります。しかし、こう考えてみてください。たとえばSaaSはアプリケーション、つまりはビジネスプロセスを自動化して、より早く、より安く、提供するサービスです。
これが発展していくと、仕事の仕方やビジネスの在り方が変わり、ひいてはビジネス価値を生み出す形になっていくのではないでしょうか。その意味では、SaaS上でもビジネスプロセスの改善は絶え間なく取り組んでいかなければなりません。そうした取り組みをリードするのもCIOの大事な役目だと思います。