「未来志向に転換すれば、これからのCIOやIT部門にはかつてない機会が訪れる。一方、過去志向のままでは、かつてない脅威に直面することになる。ここに2つの選択肢がある。率先して未来を先取りするリーダーとなるか、傍観したままでいるかだ」。ガートナー リサーチ バイス プレジデント 兼 最上級アナリストの亦賀忠明氏は、「Gartner Symposium ITxpo 2010」の基調講演にて、まるでシェイクスピアのハムレットを引用したかのような厳しい選択肢を投げかけた。
亦賀氏が言う未来志向には、拡張現実、センサー技術、ロケーションアウェア技術、コンテキストアウェア技術、ソーシャルネットワーク、クラウドコンピューティングなど、さまざまなことが含まれているが、同氏は「こうしたことがよくわからないと放置したままでいいのか」と聴衆に問いかけている。
講演の中で亦賀氏が特に強調したのは、ITコンシューマライゼーションだ。「数年前からガートナーはITコンシューマライゼーションについて話してきた。コンシューマー市場では、エンタープライズ市場よりもずっと早く技術革新が進んでいる。例えば、コンシューマー市場で2テラバイトのマイクロSDが登場するのは近い未来のことだろう。ハイビジョン録画などで大容量メモリが必要となるからだ。しかしエンタープライズ市場では、2テラバイトもあれば企業内のデータが全部入ってしまうかもしれない。こうしてコンシューマー市場で新しいテクノロジがどんどん生まれてくるのだ」(亦賀氏)
また、Twitterなどのソーシャルメディアを分析することで、「インターネットで誰が影響力を持っているかが可視化される」と亦賀氏。Twitter連動型の映画レビューサイトも登場しており、「今後企業を評価するサイトが登場する可能性もある」と話す。
「ここであらためてコンシューマライゼーションの影響を考えるべきだろう。消費者は企業の評判を察知しており、それが企業の存続危機にもつながりかねない。過去の生産者論理はここでは通用しないのだ。今後新たなエコシステムが必要になってくる」(亦賀氏)
ほかにも、未来志向を取り入れた企業の例として、UBSがWalmartの駐車場の混み具合を衛星写真で確認し、収益を予測していることを挙げた。
「こんな世界が本当にやって来るのか、一体いつ完成するのか、投資に見合うのか、誰がやるのか、などさまざまな疑問があるかもしれないが、これはどの業界にとっても、どの産業にとっても関係のあることなのだ。CIOは、これまで以上に自社の収益改善のために何をすべきか、企業の業績にとって価値のあることは何か、真剣に考えなくてはならない」と亦賀氏。
この波に乗り遅れないためにも、亦賀氏はCIOに「起業家のようになれ」とアドバイスする。「IT部門は作業するだけではだめだ。新しい価値を生み出す研究開発部門になれ。新たなテクノロジはさまざまなところで開発されており、すでに現実となっている。皆、新しいスキルを持ち、新たな創造をしていくべきだ」(亦賀氏)