日本IBMは11月17日、都内のホテルでユーザー向けイベント「IBM Cognos Performance 2010」を開催した。
今年で12回目となる同イベントのテーマは、「先を見る企業へ〜ビジネス・アナリティクスによる実現」。先ごろ発表した「IBM Cognos 10」を中心に、社内外に存在する膨大な情報を分析し、次のアクションにつながる洞察を導き出すためのビジネスアナリティクスソリューションの最新動向や、それを活用した成功事例などが紹介された。
冒頭、挨拶に立った日本IBMビジネス・アナリティクス事業部長の国本明善氏は、「83%のCIOが、ビジネスアナリティクスを投資の最優先分野にあげている。それに対して、日本IBMはソフトウェアだけでなく、ソリューション、総合力を提案したい」とコメントした。
続いて行われた特別講演では、東京大学大学院経済学研究科教授であり、総合研究開発機構(NIRA)理事長の伊藤元重氏が「経済を見るには、マクロ的に見る鳥の眼、細部を見る虫の眼、そして経済の潮目を見る魚の眼が必要。特に魚の眼が重要である。いまの潮目の流れは極めて不安定であり、警戒していく必要がある。為替も円高だけで判断すると痛い目にあう。日本は20年前の逆スマイルカーブの構造が残っており、それが今、スマイルカーブの構造へと変化しようとしている。こうしたなかで、日本の経済が想定よりも速いスピードでグローバル経済の変化に巻き込まれていること、旧来の産業に対して淘汰の波が訪れること、顧客に近いところで新たなビジネスモデルを構築し、価値を提供するところにビジネスチャンスがあることがポイントとなる。すべての企業は、この3つの世界のどこで勝負をするのかを決めておく必要がある」などと述べた。
リコーの高度なSCMに採用されたCognos
もうひとつのユーザーによる特別講演では、リコージャパン代表取締役会長執行役員の遠藤紘一氏が、同社が取り組んできた部品情報活用システム「シグマ-E」などについて紹介した。
遠藤氏は「商品の短命化、コンフィグレーション対応といった顧客の多様なニーズに応える一方、グローバル化や、在庫の削減にも対応しなくてはならない。従来のアナログ製品では商品寿命が長いところで開発費用を回収するといったこともできたが、短命化したデジタル製品ではそうはいかない。例えば、部品が打ち切りになると、事前に買いだめしておき在庫を増やすか、代替部品を探し、そのためにコストをかけて、開発期間が伸びるということにしかならなかった」と、同社の抱えていた課題を説明。この課題を解決するために、メインサプライヤーとの情報のパイプを太くし、リコーグループの電子部品認定制度を展開したという。
シグマ-Eでは、部品情報をデータベース化することで、部品の集約化、共通化を実現した。これにより、部品入手性を向上させ、さらにワールドワイドのネットワーク化によって、世界同時、同一価格、高品質を実現することにもつながったという。
「あるサプライヤーの価格が下がると、その情報を全世界のリコーの拠点で共有できるため、一斉に部品を調達するといったことも可能になった。これだけでリコーグループとして、年間数億円の削減効果になっている」(遠藤氏)
リコーでは、在庫低減に向けたSCM構造改革に取り組んできた。一般的な発想ではITを活用した高精度な需要予測をもとにした在庫削減を狙うのに対して、リコーでは、需要予測ではなく「需要変動」に柔軟に対応できる生産量の変動を重視し、実態の可視化に取り組んだという。
具体的には、情報インフラの整備によって、調達リードタイムの短縮や、顧客ニーズや物流情報のIT化によって、生産および納品の改善を実現。源流保証活動と呼ぶ主要パートナーとの関係強化によって、QCD向上につなげたほか、継続的な関係強化が図られ、サプライヤーからは次機種への提案も行われるなど、共同での開発、改善に取り組めるようになったという。
遠藤氏は「在庫量は、競合他社が3カ月であるのに対して、リコーは1.6カ月に留まっている。毎月1000億円超のコストが浮いていることになる」と述べ、過剰在庫を持たずに市場に供給できる体制を整えたことを訴えた。
実は、こうしたリコーのSCMに、Cognosが採用されているという。
「世の中が不景気になった時に、“いまこそ改革を”と言うのは良くない。これは外科手術であり、結果として取引先にも大きな迷惑をかける。好景気、不景気に変わらず、常日ごろから改善、改革を行っていく必要があり、これがBPRの初歩になる。生活習慣の改善による体質強化、健康増進こそが大切だ」(遠藤氏)