SAPジャパンは12月7日、インメモリ技術を活用したビジネス分析アプライアンス「SAP High-performance ANalytic Appliance(HANA)」の国内提供を開始したことを発表した。同社のパートナー企業である日本IBMと日本ヒューレット・パッカード(日本HP)のハードウェアをベースに提供される。
5月のイベントで発表されたHANAは、演算エンジンとデータベース(DB)をメインメモリ上に統合してビジネスに特化した使いやすいデータモデリングツールと組み合わせている。SAPジャパンの福田譲氏(バイスプレジデント ビジネスユーザー&プラットフォーム事業本部長)が「破壊的テクノロジー」と説明するHANAは、4500億件のデータを数秒で処理できるという。
HANAの処理性能は、データ量に比例しないとしている。データ量が5テラバイト(TB)に対して、サーバブレード数27(1ブレードの搭載メモリは16Gバイト)だと、1時間あたりのインデックス作成データ量は0.6TB、1時間あたりのレポート生成数が10万、平均レスポンスは4.5秒。データ量が25TBに対しては、サーバブレード数135で、1時間あたりのインデックス作成データ量は1.3TB、1時間あたりのレポート生成数は10万1000、平均レスポンスは4.2秒と説明する。「常識破りの超大量データ検索が実現できる」(福田氏)という。
一般的なビジネスインテリジェンス(BI)のシステムでは、統合基幹業務システム(ERP)や顧客情報管理システム(CRM)などの業務系システムからデータをロードし、分析しやすいようにデータを加工・集計し、目的別のデータマートにクエリをかけるという仕組みだ。一般的には業務系システムからのデータロードにバッチ処理で約1日、データの加工・集計で数時間から1日、ユーザーがかけたクエリ処理に数分から数十分と、それぞれ時間がかかる。
HANAでは、買収したSybaseのリアルタイム同期、SAPのインメモリ、BusinessObjectsのリアルタイム検索などそれぞれの技術を活用し、すべての工程を数秒で処理できることで「データウェアハウスの考え方がリアルタイムに改まる」(福田氏)と説明する。
現在、BIのような情報系システムのデータは、業務系システム直下の更新系DBからETLツールや人手で情報系DBに入れられるというのが一般的だ。業務系システムはリアルタイムでデータが蓄積されるものの、情報系システムへのデータ移行で「人手のかかるバケツリレーや重複作業、加工集計処理に時間がかかり、全体として時間がかかりすぎている」(福田氏)。そのため、経営スピードという点では「ITが足かせになっている」(福田氏)面も否めない。
SAPジャパンでは、業務系システムと情報系システムがリアルタイムで連動する「リアルなリアルタイムを目指す」(福田氏)という。今回のHANAは「HANA 1.0」として、更新系DBと情報系DBをつなぐ形で設置して、データロードのリアルタイム化が実現できるとしている。この際には、既存システムを変更する必要がなく、既存DBをインメモリ化することができる。
2011年内の提供を予定する「HANA 1.5」では、HANAそのものを情報系DBとして全社データウェアハウスの統合が可能になるという。情報系システムが全インメモリ化されることになるとともに、インメモリエンジンで動く全社的なBIになるとしている。
さらに2012年内の提供を予定する「HANA 2.0」では、更新系DBもHANAにすることを狙う。更新系DBと情報系DBの両方をHANAに統合することで、更新系DBのオンライントランザクション処理(OLTP)と情報系DBのオンライン分析処理(OLAP)を1つのシステムで処理できるようになるという。「インメモリ技術でボトルネックを解消して、業務とシステムがリアルタイムで稼働する」(福田氏)という世界になると説明する。福田氏はこのようにHANAのロードマップを説明するとともに、HANAに活用されているインメモリ技術が、SAPの標準技術になるとし、今後はインメモリを基盤にしたアプリケーションも開発することを明らかにしている。
HANAの価格は「数百万から一千数百万円」(福田氏)になるとしている。SAPジャパンでは販売対象として、まずは同社の既存顧客を想定、2011年で30社への導入を目指す。今回の提供開始では、日本IBMと日本HPのハードウェアに載せるが、今後はほかのハードウェアベンダー製品にも拡大していくことを検討している。