日本企業の強みを忘れたIT部門の課題(前編)
お客様からご依頼頂く仕事にはさまざまなタイプがある。コストの状況を診断したり、IT戦略の立案、新しいCRM(顧客情報管理システム)の構想と要件定義、ベンダー選定を支援したり、システムの運用体制の評価や改善策を検討したりとさまざまである。その中で、筆者がやっていて楽しい依頼は「業界のIT化動向を包括的に分析してほしい」という依頼だ。
海外のコンサルタントやアナリストと協働しながら、業界のIT戦略と戦術を解き明かす。当然、倫理の問題として個別の企業の情報を依頼者に見せることはできないのだが、多くの場合、日本企業と海外企業のITには差がある。その彼我の差が、お客様には“衝撃的”と映ることも多い。
当然、業界といっても多くの企業で構成されているため、進んでいるような企業群もあれば、そうではない企業群もある。ただ、これまでガートナーが分析した中で言えるのは、業界でトップを走る企業はやはりITも進んでいる、ということだ。
前回、日本企業は「クラウドなんて考えている場合ではない」と申し上げた。この発言は、上述したような経験に基づいているのだ。グローバルでNo.1やNo.2を走っている企業のITは、包括的に分析してみると「クラウドレディネス」ができている。
部長、僕には納得できないことがあるんです
「やぁ、宮本くん。悪いね。また来てもらって」
「いえいえ、仕事ですから。あ、違います。部長に会いたいからです」
「誰にでも言ってるんじゃないの? まるで、男芸者だなぁ」
「悪いですか、男芸者で? ちょっと年食いましたけどね」
「いやぁ…まだ若いよ。これからじゃない?」
「はぁ。そりゃそうと、今日はこの前の続きで、『クラウドなんて考えてる場合じゃない』ってことをご説明しようと思っているんですよ」
「うん、そうだったね」
「でね、部長。話を始める前に、聞いてほしいことあるんですよ」
「そう。いいよ……でも、短く話してね」
「…最近、部長の話、トゲ出てきてません? ちょっと感じ悪いなぁ…」
「ま、たまには攻撃しないと。いつも、ダメ出しされているからねぇ」
「またぁ…傷つくなぁ。で、僕たちっていろいろな仕事をさせて頂くじゃないですか? 最近、結構多いのは、海外企業のIT化の戦略と戦術を分析してくれっていうのがあるんです。世の中にあるもの、あるいはいろいろな外資系ファームやベンダーが知っていることも、割と断片的ですからね。そういうニーズがある」
「あぁ、そう。我々もそういうの、できるといいなぁ。ちゃんと知っておいたほうがいいんだよね。A社とかB社のこと」
「じゃ、今度やりましょう。一方で、自分たちIT部門の仕事振りを評価してほしいって仕事も結構あるんですよ」
「へぇ~いいねぇ、そういうのも。中でどっぷりつかってやっていると、自分たちがいいのか悪いのか、平たく言うとわかんないからなぁ~」
「そういう2つのタイプの仕事の中で分かってきていること。まず、No.1やNo.2の企業で言えるのは、潤沢で素晴らしい配分の投資を行っていて、先進的で体系的で柔軟なIT構造を持っていて、合理的な組織運営と先進的なベンダーへの委託をしているんです」
「そりゃ、そうだろうね。No.1だから」
「えぇ。でも、一方で、自社分析をやってほしいというケースなんかで見ていると、結構評価は良くなるんですよ。売上高IT投資比率や1人当たりIT投資比率なんかは、割と優秀な数値をたたき出していて、技術選択は余り間違うことなく、それなりに賢者の選択を行っている。従業員のパフォーマンスもそれなりに高い。例えば、IT部門1人が見るITコストなんて、どこよりも優れているみたいな。でも、そういう会社、悩んでいるんですよ。僕、どうしてだか、わかんないんですよね」