「そうなんだよ。これらをやるのは大変なんだけど、わかってくんないんだよねぇ……その大変さを」
「そうです。一方でそんなとき、海外の企業は合併をして、供給者を少なくして、『これが普通です。これをのんでください』って供給者の要求を押し付けてきた。従業員に対しては、雇う企業が少ないから、この条件で働いてって押し付けてきた。結果的に会計計上は楽になってきた。システムは、そもそも標準的なものがあれば良かった」
「うぅん。そうだなぁ。情報システムにとっては夢のような世界だなぁ、海外は」
「そういう、個別ケースへの対応に執念を燃やし、結果として数多くのバラエティを抱えた基幹系システムができあがってしまった。それがERPにのっているもんだから、アドオンが莫大に増えていってしまった」
「そうだよね……それで、何が言いたいの?」
複雑で高速になるビジネス
「今後の成長戦略を実現しようとしたときに実は、ビジネスってどんどん複雑で高速になるんですよ。某外資系企業は、シンプルに運営をしてきていたのが、日本企業がやっていたような、顧客別の要求に答えるようになってきた。なんでだか、分ります?」
「そりゃ、グローバル化して競争が激しくなったからでしょ?」
「そうなんです。昔、日本市場で起きていたことが、世界市場で起きるようになってきたってことだと、僕は理解しています。でも、そういう対応は元来日本の方が得意なはずなのに、実は今、海外企業の方が、こと情報システムに関しては得意になってきている」
「そりゃ、悔しいなぁ……でも、それって、どうやっているの?」
「簡単です。むしろ、日本企業の得意芸です。共通的にできることや標準的にできることの範囲を増やして、個別に対応することを切り分けている。同じものなんだけど、ちょっと変えて、違うものとして売る。そういうの、部長のところだってやっているじゃないですか。実際、僕たちも最近、どこに行ってもインフラの見直しには仮想化って言っていますし、アプリケーションの見直しにはSOA(サービス指向アーキテクチャ)って言っています。これ、僕思うんですけど、共通化するし、標準化することだと思うんです。日本企業はそれができてない」
「うぅん…」
「例えば、海外No.1企業のインフラチームなんて、だいたいグループ全体で共有なんですよね。SOAのところも、ポータルとかBPM(ビジネスプロセス管理)とかデータ統合とかESBとかの共通的なプラットフォームなんかも、グループ全体で同様のモノを使うガバナンスができていることが多い。で、個別事業には、個別事業用のアプリケーション…まぁ、ビジネスロジックですね…をチョコチョコ作る体制にしている。でも、部長のところは、個別企業の個別部門ごとに結局はシステムが作られていて、せいぜいグループで共通化しているのは、ネットワークとデータセンターくらいですよね」
「ま、それさえできていないんところもあるんだけどね」
(編集部より:日本企業と海外企業の違いから始まった“部長”との会話は、IT部門の永遠の課題とも言える“人材”に行き着きます。中編は4月7日に掲載予定です)
宮本認(みやもとみとむ)
ガートナー ジャパン株式会社
コンサルティング部門マネージング・パートナー
大手外資系コンサルティングファーム、大手SIerを経て現職。16業種のNo.1/No.2企業に対するコンサルティング実績を持つ。ソリューションプロバイダの事業戦略、組織戦略、ソリューション開発戦略、営業戦略を担当。また、金融、流通業、製造業を中心にIT戦略、EA構築、プロジェクト管理力向上、アウトソーシング戦略プロジェクトの経験も多数持つ。
編集:田中好伸
Twitterアカウント:@tanakayoshinobu
青森生まれ。学生時代から出版に携わり、入社前は大手ビジネス誌で編集者を務めていた。2005年に現在の朝日インタラクティブに入社し、ユーザー事例、IFRS(国際会計基準)、セキュリティなどを担当。現在は、データウェアハウス、クラウド関連技術に関心がある。社内では“編集部一の職人”としての顔も。