ITとは結局、何なのか?
「う~ん…流石。今日、僕が用意していた話、もう終わっちゃいましたね。今日は完全に部長に一本取られちゃいましたね。そこまで、もう理解を深めていただいているならば、ITとして何を目指すべきか、その点はもう僕の方から語る必要はなさそうですね。でも、お時間もありますから、用意した話はもうこれで切り上げて、部長の関心について、フリーでディスカッションしましょうか?」
「そうだね。たまには、そういうのもおもしろい。じゃ、今日はそうしよう。たまには目的が不透明な打ち合わせがあってもいい。じゃ、宮本くん。僕から議論の口火を切ろうかなぁ。ITって何?」
「は?」
「だから、『ITって何?』って質問だよ。最近もう一度、この基本を考え直しているんだ。しばしば、ITは業務改革の道具だと言う。しかし、ウチの会社に『ITを入れて業務が良くなった』と実感している人は、実は余り多くはない。ITを使って情報武装という言い方もあるね」
「まぁ、そうですね」
「でも、ウチの営業は情報武装なんてやるレベルじゃないよ。もっと簡単なことしかできないよ。取引先と仲良くなって情報をもらって、ウチの技術をきちんと取り次いでね。中には情報武装的なことをやっているものもいるだろうが、多数は特段情報武装をしなくても、営業はできていく。残念ながらね。この状態について、多くのコンサルタントは活用ができていないという。ただ事業はちゃんと回っているんだ。苦しいとはいえ、他社に較べて利益だって出している。必要な仕組みにはちゃんとユーザーが情報を入力し、誰かがそのアウトプットを使っているということだ」
「はい…」
「ただ、誰もITを不要だとは思っていない。メールなども、弊害を説く役員もいるけど、トータルで見れば随分と便利になったよね。むしろ、ITが大切だと気付き始めている人も少なからず増えてきた。さっきも言ったけど、この前の震災の数日後にあった話だが、『ITがあってくれて本当に良かった。ないと思うとぞっとする』と多くの部長から言われた。皆、必要なインフラだとは思っている」
「………」
「他にも疑問がある。基幹系とは、本当に“基幹”なのかね。確かに、金融機関の基幹系システム、勘定系って言うんだっけ? これらは基幹だろうし、この良し悪しが企業の競争優位を決めていると言っても過言ではないことは想像がつく。システムの失敗が社会問題化するぐらいだからね。でも、我々のような製造業にとって、ERPが競走優位の源泉になるか? と言うと、決してそんなことはないよ。宮本くんは、どう思っているの?」
(編集部より:企業としてどのようなITを目指すべきか――。驚いたことに“部長”はすでにはっきりとした答えを持っていました。しかし、会話は思わぬところ方向に……。中編は5月19日に掲載予定です)
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宮本認(みやもとみとむ)
ガートナー ジャパン株式会社
コンサルティング部門マネージング・パートナー
大手外資系コンサルティングファーム、大手SIerを経て現職。16業種のNo.1/No.2企業に対するコンサルティング実績を持つ。ソリューションプロバイダの事業戦略、組織戦略、ソリューション開発戦略、営業戦略を担当。また、金融、流通業、製造業を中心にIT戦略、EA構築、プロジェクト管理力向上、アウトソーシング戦略プロジェクトの経験も多数持つ。
編集:田中好伸
Twitterアカウント:@tanakayoshinobu
青森生まれ。学生時代から出版に携わり、入社前は大手ビジネス誌で編集者を務めていた。2005年に現在の朝日インタラクティブに入社し、ユーザー事例、IFRS(国際会計基準)、セキュリティなどを担当。現在は、データウェアハウス、クラウド関連技術に関心がある。社内では“編集部一の職人”としての顔も。