7月20日のGoogleの公式ブログ上で、「Google Labs」が閉鎖されることがアナウンスされた。Googleの社員が20%の時間を通常の担当業務とは別のプロジェクトに参画できるというのは有名な話だが、それをプロトタイプの開発などの具体的な実験ステージへ進めるのがGoogle Labsだと言われている。
TechCrunchの記者は、Google Labsが閉鎖されても、20%ルールが維持されている限りはGoogleのイノベーション力は落ちないだろうとコメントしている。しかし、今回の閉鎖の背景が、戦略的なリソースの集約という、いかにも業績が傾きかけた大企業から出そうなアイデアに基づいていることを考えるとちょっと不安になる。
大企業Google
Googleの社員数は、2010年末で2万4400人。今年予定されている約6000人の採用が順調に進めば、2011年末には社員数が3万人になる。こうした成長に伴うマネジメント業務の複雑化に対応するというのが、年初に行われたCEOの交代とLarry Page氏、Sergey Brin氏、Eric Schmidt氏の役割の明確化であった。
そして、Larryは7月15日に行われた四半期報告のプレスカンファレンスにて、ビジネスチャンスを掴むためには選択(“focus”)とプライオリティ付け(“prioritization”)が重要であるとし、「Google Health」や「Google PowerMeter」といったプロジェクトを中止したこと、プロダクトラインの整理を行ったことを説明した。その後に発表されたGoogle Labsの閉鎖もこの文脈の中に位置付けられる。
Googleは業容が拡大する一方で、市場からはコスト増やFacebookなどの競合からの追い上げに対する不安が指摘されていた。したがって、マネジメントの役割の明確化や投資案件の集約といった施策は市場からの要請にこたえるものである。
一般的企業の悩み
一般的な企業は、Clayton Christensenの言うところの「持続的なイノベーション」は出来ても「破壊的なイノベーション」は苦手である。そのため、きちんと顧客の要請に応じ続けているにも関わらず、「破壊的なイノベーション」で市場に参入する新興企業に敗退する、ということが起こる。Googleに関しては、先の20%ルールやGoogle Labsが、「破壊的イノベーション」を維持する仕組みであると言われてきた。
一方、高い評価を得ている「Google+」の戦略は、Facebookを良く研究した上で、そのさらに上を目指すものである。これは、チャレンジャーやニッチャーとしての動きではなく、また決してフォロワーとしての立場に甘んじようということでもない。正にマーケットリーダーとして、自らの経営資源を活かしてネットサービスのフルラインアップ化を図ろうとするものである。
つまり、Google+に関しては、自らが「破壊的イノベーション」を起こしたのではなく、他社が起こした「破壊的イノベーション」を資本力でカバーしようとしており、この点においては、Googleも一般的な企業と同じイノベーションのジレンマを抱えつつあると言える。やはりGoogleも一般的な大企業への道を歩みつつあるのだろうか?
さらなるイノベーションへ
Christensenは、「破壊的イノベーション」の実現のためには独立した組織を持つことを一つの解として提示している。これは、顧客や株主が資源の有効活用が求めてくるために、短期的なビジネス化を見込めないイノベーション領域から経営資源を引き剥がす力が働くことによる。分離独立した組織にリソースを移管することによって、外部からのプレッシャーを避けてイノベーションを維持することができる。
Googleにおいては、Google+のようなプロジェクトを成功させるためにリソースの集約が必要である一方、さらなるイノベーションのためにはGoogle Labsをさらにエスカレーションさせた仕組みが必要なのかもしれない。Google Labsをもってしても、FacebookやTwitterは外部から登場し、Googleの競合として育ちつつあるからだ。
よその企業の事をごちゃごちゃ言うなという指摘もあろうが、Googleという「破壊的イノベーション」を代表する企業が、その成長の中でどうイノベーションをマネジメントしていくのかを見ていくことから、我々は多くのことを学べるに違いない。特に、何がコンシューマーに受けるのか予測のつかないネット系サービスにおいて「破壊的イノベーション」を持続することは容易ではない。そういう意味において、Google Labsが閉鎖されたとしても、きっと新たなイノベーションの仕組みが出てくるものと期待したい。
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飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。