「ほぅ、敵か。差し詰めウチの会社じゃ経営が敵かな?」
「う~ん、ちょっと違いますね…。部長にオススメしているのはIT戦略の立案です。戦略ですから、もともと軍事の概念ですね。ですから、敵…すなわち、勝つべき相手がいるところからスタートする。同じ業界の同じレベルの企業でもいいですし、極論すると他業界でもいい。そういう外に目を向けて“アソコにはITレベルとしては勝ちたい、負けない”というのを定めておいて頂くといいと思っています」
「そうだね。結局、上も気にするんだよね、横並び。それをやめろっていう方が困難。それよりも問題は、漠然と横並び意識を持っていることなんだよね」
「そうです。どうせなら、明快なライバル意識を持ってもらった方がいいと思いますよ。それを常に分析しておく。ここが重要」
「でも、何を入れた、いくらくらい使ってるってことは、業界団体としてわかっていることは多いよ」
「えぇ、そうですね。でも部長。業界団体で付き合っている同業の皆さんは皆さんにとってライバルですかね?」
「あぁ…そうだね…ライバルっていうのともちょっと違うかなぁ。それにIT的に見ると負けたくない相手って感じでもないからなぁ…」
「そうなんですよ。それよりかはきっちりと、グローバルのトップ企業の動向を分析しておいてもらった方がいい。敵っていうのとは少し違うかもしれませんが、彼我の差をきちんと押さえておいてもらうと、自分たちの課題っていうものは今よりももっとシャープに把握できるようになると思いますよ」
「そうだね。ベンチマーク先っていう意味にもなるかな」
「そうです。だから、進めているのが進度分析です。重要なのは何々を入れたとか、そういう道具立てのことではなく、業務や技術をどこまで進化させたか。例えばERP(統合基幹業務システム)を入れたってのはあまり重要ではなく、経営管理サイクルを週次のサイクルに変えたっていう、業務の進化のレベルを抑えること」
ベンチマークとしてのライバル
「うん。言いたいこと、わかるよ。でも、進化なんてわかるの?」
「うぅん…痛いところを突きますねぇ…。でも、わかります。手前味噌ですが、ウチのアナリストが出している“ハイプサイクル”って手法があるんですけど、これは歴としたITの進化論を言っているんですね。分析の手法はマーケットでどこまで浸透するかってことで書かれていますけどね」
「あ、あの上がって下がってまた上がる、あの曲線ね。確かに、あれは進化だなぁ」
「もう一つコツを申し上げると、前回、統合と分散を繰り返して進化するって申し上げたじゃないですか。これは技術面ではそういうことが言えるんですけど、業務面の場合には、ここに速度を速くするってのが加わるんですね。よりリアルにする、高頻度でできるようにするって方向です」
「なるほど。月次決算を週次にしたり、リアルタイム化をいろいろと進めたりってことだね」
「そうです。で、その進化の動向を分析して、ライバルとの差を見極め、自分たちが大切にしたいモノは、追いつき、追い越すようにする。これが基本ですね。そこで重要なのが、先ほど説明した、価値観って奴です。新しいものを追うにしても、何か大切なものをじっくりと育てるにしても、どこは追いつき、追い越すのかを決める、軸になりますよね」
「ま、うちにしてみると、グローバル化を進めているから、敵としてマークすべきはやっぱりグローバルトップの同業なんだろうな。でも、おカネをたくさん持っているわけじゃないから、彼らに勝るべきポイントを選んで集中だね。それは前にも言っているけど、営業領域なんだろうなぁ。そこが突破力の一つになるだろうから」
(編集部より:IT戦略をまとめる上で、会社にとってのITの位置付け、仮想敵を決めてきました。IT戦略はどうあるべきなのか。続きは9月1日に掲載予定です)
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宮本認(みやもとみとむ)
ガートナー ジャパン株式会社
コンサルティング部門マネージング・パートナー
大手外資系コンサルティングファーム、大手SIerを経て現職。16業種のNo.1/No.2企業に対するコンサルティング実績を持つ。ソリューションプロバイダの事業戦略、組織戦略、ソリューション開発戦略、営業戦略を担当。また、金融、流通業、製造業を中心にIT戦略、EA構築、プロジェクト管理力向上、アウトソーシング戦略プロジェクトの経験も多数持つ。
編集:田中好伸
Twitterアカウント:@tanakayoshinobu
青森生まれ。学生時代から出版に携わり、入社前は大手ビジネス誌で編集者を務めていた。2005年に現在の朝日インタラクティブに入社し、ユーザー事例、IFRS(国際会計基準)、セキュリティなどを担当。現在は、データウェアハウス、クラウド関連技術に関心がある。社内では“編集部一の職人”としての顔も。