ロイターの伝えるところによると、シンガポールでは6万人の人々が「カレーの日」なるものに賛同して、8月21日にカレーを食べたという。自称カレー好きの筆者として看過できないニュースである。
シンガポールのカレー騒動
ことの発端は、シンガポールの中国系移民が、インド系の隣人が作るカレーの匂いに苦情を言ったことに始まる。Bloombergによれば、最後は当局仲裁のもと、その中国系移民が在宅しているときにはカレーを作らないということに相成ったという。これが報じられたのを受けて、今や新しいムーブメントの発端としてデファクトであるFacebookにて抗議のページが作成され、このカレーを食するイベントに繋がった。
この騒動の背景には、シンガポールで増加し続ける移民の問題がある。シンガポールはもともと多民族国家であるが、近年移民の人口が増加していることで、就業や住宅価格の上昇などの問題が生じている。そこへ来て、移民による「カレーを作るな」という主張が通ってしまったので怒っている訳である。
でも、そもそもカレーってインドの食べ物なんだから、シンガポーリアンがそんなに怒らなくたっていいんじゃないの? という素朴な疑問が生じる。が、そこがカレーのグローバル化のすごいところで、シンガポーリアンはカレーをシンガポール料理の一つだと認識しているのである。
カレーとグローバリゼーション--その特徴と戦略
カレーはご存じの通りインドに起源を持つ料理であるが、カレー文化なるものは今や世界中に伝播し、それを自国料理として認識している国はシンガポールに留まらない。日本においてカレーライスは国民食とまで言われるステータスを確立している。ウィキペディアによれば、日本のカレー系食品には、カレーライスやカレーうどんなどの代表的なもの以外にも、カレー大福、カレー寿司、カレージュースなどちょっと想像できないものまである。
カレーはなぜそこまで広まったのか。その特徴をひも解いてみると、以下の3つの条件を備えていることが判る。
- 作り方が簡単であること
- 具材のバリエーションが豊富であること
- ローカル化が容易であること
そもそもインドのカレーにしたって、牛を除けばチキン、ラム、魚、各種野菜と様々な具材のバリエーションがあり、そのスパイスの加減も様々、一緒に食べるのもライスありナンありと相手を選ばない。故に多民族国家と言われるインドにおいても共通の食文化として根付いている。更に、日本に来ればビーフを具材とすることも許され、うどんに入れたり菓子パンにしてみたり、なんでもありなのである。
つまり、カレーというのは、ITで言えばプラットフォームみたいなもので、Wikipediaの定義にある「複数の香辛料を使って野菜や肉などのさまざまな食材を味付けした料理」であれば、その上のアプリケーションは何でも良い。それ故に、広く世の中に浸透し、かつそれが異国の食文化に由来していることすら意識させないのである。
カレーに学ぶグローバリゼーション
グローバリゼーションを止めることは困難であるということに同意は得られても、それが良いことなのか悪いことなのかという議論については容易に結論を見ることはない。グローバリゼーションは、地域固有の文化を破壊するものだという議論もあるし、決して破壊することはないという議論もある。