今回で本特集「ビッグデータとは何か」も一応の終了である。「ビッグデータ」周りの環境は急速に変化しているため、この段階で「総まとめ」を書くことは困難だ。そこで、ユーザー企業にとっての「ビッグデータ」に関する筆者なりのアドバイスを書いて一応の「中締め」としたい。
今後のフォローアップはまた別の連載や筆者のブログにおいて書いていきたいと思う。
ユーザー企業は「ビッグデータ」ブームから何を得るべきか
「ビッグデータ」とは単に昔からあるデータ中心型のアプリケーションに新しい名前を付けただけではないかとの批判が聞かれることがある。そして、特に最近になり、実際そうとしか言えない事例は増えている。数十ギガバイトレベルのデータを扱うアプリケーションまでも「ビッグデータ」と銘打ってしまうようなケースだ。
このような「便乗商法」には注意が必要だ。それでも「ビッグデータ」という言葉の普及により、資産としてのデータの重要性が企業、特に非IT系のマネージャーに理解されるようになれば、それはそれで望ましいことではないかと筆者は考える。
データが企業にとって重要な資産であることは改めて説明するまでもないだろう。「データは企業の戦略的資産」であるというような言い回しは「ビッグデータ」が騒がれるずっと前から聞かれていた。正直言えば手垢が付いてしまった表現と言えるかもしれない。しかし、大規模なネット系企業等を除いて、データに真の意味で戦略的資産にふさわしい地位を与えている企業はそれほど多くない。
たとえば、企業のトップレベルのミッションステートメントにおいては「顧客」「人材」「ブランドイメージ」「品質」などの用語が頻繁に使われるが、これはこれらの要素が企業の戦略的資産ととらえられているからだ。データに同じような位置づけが与えられているだろうか? さらに言えば、IT関連の用語が企業経営のトップレベルで語られることも少ないように思える。ITは確かになくてはならない存在だが、戦略的資産とまでは言えない、つまり、企業の差別化の源泉ではないという見方が企業経営者に一般的に見られる。
これは、米国の評論家ニコラス・G・カーが著書『ITにお金を使うのはもうおやめなさい』で展開した主張だ。確かにITは重要だがテクノロジでは差別化できない。誰でも金さえ出せば似たようなテクノロジを入手することができる。ITに余計に予算を配分したからと言って企業の競争力は高まらないということだ。
この議論は(おそらくニコラス・G・カーは意図どおりかもしれないが)ミスリーディングだ。確かに企業のIT投資の「大部分」は差別化の源泉にならない。たとえば、パソコンがないと仕事にならないが、どのメーカーのパソコンを買うかの意思決定は戦略的とは言えないだろう。
ではその「大部分」以外のどのIT要素が差別化を生み出すのか? その最有力候補がデータ資産だ。
先にテクノロジは金を出せば買えると述べたが、企業が長年の間に蓄積し、管理し、ブラッシュアップしてきたデータは金を出しても買えない。データは長年の企業活動そのものであり、他社が模倣することはできない。
そして、前述のニコラス・G・カーも「データこそが企業の究極のプロプライエタリ(独自)の資産である」と述べている。つまり、テクノロジで差別化できないのだからデータで差別化すべきだということだ。多少単純化しすぎかもしれないが、正論と言えるだろう。ティム・オライリーが言う「データは次の『Intel Inside(インテル入ってる)』である」というのも同じ考え方だ。多くのものがオープンになっていくネットの世界で、インテルがPCの世界で実現したような強力な差別化を実現する要素はデータであるということだ。