独SAPが2010年はじめのトップ交代以来、新戦略の1つとして強化してきたのがクラウド(SAPでは「オンデマンド」という)。世界第3位のソフトウェアベンダーであるSAPは、クラウドを積極的に受け入れ、新たな事業の柱としていく構えだ。
この分野の取り組みの中心となるのは、2010年に提供を開始したクラウドソリューションの「Business ByDesign」だ(一部の国でのみ展開中)。顧客数は650社を超え、年内に1000社に達する見通しという。11月にはアプリケーションストア「SAP Store」を発表、PaaSにも事業を拡大させる姿勢を見せた。
Oliver Wang氏
SAPが11月に中国・北京で開催した「SAPPHIRE Now/TechEd in Beijing 2011」で、SAPのオンデマンドソリューション&クラウドサービス担当バイスプレジデント、Oliver Wang氏が報道陣の質問に答えた。
SAPのクラウド事業について、Wang氏は(1)アプリケーション、(2)パートナー企業と共同で進めるイノベーションと新しいエコシステム、(3)アプリケーションストア、(4)クラウド向けアプリケーションプラットフォーム——という4つを柱に進めていくと述べる。
具体的な取り組みとしては、仮想化、マルチテナント、インメモリの3つの技術を紹介した。仮想化では「SAPが仮想化ソフトウェアを提供するのではなく、(他社の)最適な仮想化技術を使うことにコミットしている」という。マルチテナントは、拡張性をもたらすことから重要な技術となる。「単にソフトウェアをクラウドに移行させるだけの企業もあるが、それではクラウドコンピューティングのメリットを最大限に活用できない。SAPはソフトウェアの設計段階からマルチテナント構想を導入している」とWang氏。3つ目のインメモリは、同社が6月に一般提供を開始した「HANA」だ。「クラウドコンピューティングでは、優れたユーザーエクスペリエンスと速度の両方が必要だが、HANAは比類なき性能と速度を実現するもので、SAPのクラウド戦略にとって礎石ともいえる」と相性の良さを強調した。
クラウドへの不安をどう解決するか
中国はBusiness ByDesignの第一弾のローンチ国だが、ユーザー企業の「最大の課題は、企業の中でクラウドの温度差があること」で、「一部は前向きだが、まだ懐疑的な企業も多い」という。具体的には、信頼性、データの安全性、プライバシー、パフォーマンスについて不安があるようだ。
「システムが目の前にあれば、障害が発生した際になにがあったのかすぐに把握できる。だが、クラウドでは障害が起こったときにすぐにわかるのかと不安なようだ」とWang氏。プライバシーについては、「マルチテナントで複数の企業が同じハードウェアを利用する場合、自社データは本当に安全なのかという不安が聞かれる」という。
もちろん、SAPはこれらの不安に対する答えを用意している。