「周囲の人と同じこと」をしてしまうワナ
こんな経験はないでしょうか。取引先から、何か困っているような連絡が、メールで届きます。ただし、メールアドレスは個人あてではなく、部門あて。文面も取り立てて緊急性が高いと思えません。周囲の同僚も、この案件に対応しようという気配を見せていません。で、「必要ならだれかが対応するだろう」と「とりあえず保留」の状態にしておくことに。最終的に、そのメールは忘れ去られてしまい、数週間後、より大きな、かつ緊急性の高いトラブルとなっていることを、怒りの言葉と共に取引先から知らされます。
人間は、特に判断のための情報が少なく、状況が不確定な場合に「自分の周囲にいる、自分と立場の近い人がどうしているか」を見て、同じように行動しようとする傾向が強いのです。多くの場合は、その判断でいいのですが、実際の問題が「実は」緊急な決断や行動を必要とするものだった場合には、その心理的な傾向のために、誰もが「周囲と同じように」対応に着手せず、不幸な結果を招いてしまうことがあります。
では、先ほどの例で、あなたが「取引先の担当者」だった場合は、どのようにトラブルを知らせればよかったのでしょうか。例えば、「部署宛ではなく、個人あてにメールする」「直接その部署に電話を入れ、電話に出てくれた人の名前を聞き、今回の件の担当として責任を持って回答をくれるよう依頼する」といった方法が考えられます。これにより、少なくとも「誰がこの件の担当者なのか分からない」という不確定要素がなくなるからです。
この「周囲と同じことをする」といった傾向は広く知られており、世の中の多くの場面で、その力が利用されています。テレビのバラエティ番組におけるスタジオ観覧者の「笑い声」や、ショッピング番組で登場する「実際のご利用者の感想」「現在のご注文数」といったものは、非常にわかりやすい例でしょう。IT業界での例を挙げるなら、「○○業界で既に××件以上の導入事例!」「複数の先進企業では、もう先行導入が始まっています!」といった表現も、そうした傾向に訴えるための定番手法といえるかもしれません。
この傾向によって間違った判断をしてしまわないためのポイントは、一度落ち着いて「自分の場合はどうか」を考えてみることでしょう。「この問題を認識しているのは自分だけかもしれない。自分が対応すべきではないか?」「他の人はこの商品を欲しいと思っている。しかし、自分にとってこの商品は魅力的なものか?」といった自問が有効です。
そして、一番注意しなければならないのは、「周囲の人々は、本当に自分の意志でそうしているのか?」という点です。行列や催眠商法の例は古くからありますが、最近では、ある「グルメ情報サイト」に、お金を受け取った業者が金で雇った「サクラ」による口コミ情報が掲載され、それが特定のお店の評価を操作していたことが判明し、情報サイトの運営者が訴訟を検討しているというニュースも流れています。
そもそも判断に利用するための情報が故意にゆがめられたものであることが明白ならば、その情報を利用することは避けた方が賢明でしょう。