「ユーザー企業の課題は、既存ICT資産が足かせになって変化に対応できないこと。そして、北米のユーザー企業に比べてICT投資に10倍もの差があり、これが競争力の差として表れている点にある」——。
富士通 サービステクノロジーグループ 共通技術本部長の柴田徹氏は、日本のユーザー企業が置かれた立場について、このように説明する。
柴田氏は、米ガートナーの調査から次のように語る。
「全世界では67%を既存システムの運用のためにIT予算を投資し、33%を成長・変革のために投資しているのに対して、日本の企業は77%を既存システムの運用に投資、成長・変革のための投資は23%に留まっている。ここでは10ポイントもの差がある」
さらに年商に対するICT投資比率は、日本が0.76%であるのに対して、北米の企業は3.83%。5倍の差があることも示す。
「変革という点だけを取り上げれば、ICT投資全体の占める比率は日本の企業の約2倍。さらに、年商をベースにした投資額比率では5倍の差がある。結果として、10倍もの差が生まれていることになる。新たな発想や企画が企業競争力の源泉だとすれば、10倍の差は勝負にならないほどの差が生まれているといえる。新たな分野に投資を振り分けるだけでなく、ICT投資そのものの考え方を変えていく必要がある」とする。
柴田本部長は、新たな情報システムに対する戦略的投資の必要性は訴えるものの、その前に既存システムの見直しが重要な課題であることを示す。
「更新すべき既存システム資産が膨大であり、仕様書などのドキュメント化が不十分。加えて、更新による投資効果がわからないという声が多い。クラウド化を図ったがコストダウン効果がみえないという理由のひとつには、既存アプリケーションはそのままであり、単にクラウド環境に移行したという状況であることが多い。既存システムの見直しが喫緊の課題でありながら、それが解決できず、さらにこの状況が人材育成やその他の課題にも影響を及ぼしている」とする。
富士通がいま、新規システムへの投資以上に既存システムの刷新に注目する理由はここにあると柴田本部長は語る。
「他社リプレース案件のある事例では、業務のスリム化によってプログラムは6000本から2520本へと58%削減し、再構築によって12億円から8億円へと34%の削減を達成した。そのままにしておけば、支出の5割以上を無駄なままで運用していることになる。膨大なアプリケーション資産が競争力をなくす源泉となっており、企業はそうした課題に正面から向き合っていく必要がある」とする。
富士通では、その解決に向けて3つのアプローチがあるとする。
それは、スリム化や変化へのすばやい対応を行うとともに最適なシステムへと刷新する「モダナイゼーション」、使われないアプリケーションの開発を抑えてビジネス成長を加速する「成長開発」、投資がビジネスに貢献できているのかどうかを継続的にチェックする「ICT投資評価」の3つだ。
モダナイゼーションとしては、アプリケーションやデータベースの稼働状況を把握し、業務利用上の課題を浮き彫りにする「見える化」、アプリケーションやデータベースの統廃合による「スリム化」、プラットフォームを最新のものに刷新し、インターフェースやアプリケーション部品の共通化を図る「最適化」という3つのステップを踏むことになるという。
「新システム稼働に伴い既存システムを見直したある企業の場合、約1割にあたる972のバッチジョブと2万2000もの帳票を削減した。この結果、データベースのライセンスを21%削減でき、大幅なコスト削減につげることができた。システムには多くの無駄があり、これをダイエットするとともに、次のビジネスや成長につながるシステムを筋肉質な体質の上で構築することが必要である。常にスリム化を維持することができれば、再モダイナゼーションへの取り組みでも、引き続き筋肉質な体質での進化が可能になる」とする。
だが、既存システムのモダナイゼーションには、多くの投資とリスクが生まれる可能性がある。