サイボウズは、2012年度を「戦略転換点の年」(サイボウズ・青野慶久社長)と位置づけ、クラウドビジネスへと舵を切る姿勢を鮮明にした。
2011年11月にクラウド基盤である「cybozu.com」を発表。さらに、コラボレーションツールである「サイボウズOffice on cybozu.com」、および大手企業向けの「Cybozu Garoon on cybozu.com」を発表。主力製品をクラウド上で展開するとともに、クラウド環境に特化した新たなアプリケーション開発ツールの「Kintone」を投入し、クラウド製品群を一気に取り揃えた。
青野社長は、「これまでコンピュータ産業には、大型コンピュータ、パソコン、インターネットという大きな波が訪れたが、4つめの波としてクラウドが訪れている。3年前まではクラウドが4つめの大きな波になるという議論を訝しげにみていたが、いまは数十年に一度の大きな波が押し寄せていることを確信している。そして、これによって企業システムも大きく変化することになる。サイボウズは思い切ってクラウドに転換し、いま大きな時代の変化の先頭に立っている。最先端のクラウド環境を開発、提供し、次の成長に向けて邁進していく」と語る。
サイボウズの青野慶久社長
青野社長がクラウド時代の到来で注目しているのが「スピード」と「コスト」だ。
そのメリットを、Kintoneを例に示してみせる。
「たとえば営業日報システムひとつを構築する場合にも、従来は、要件定義、価格交渉、仕様書作成、ハードウェアやソフトウェアの手配、開発、検収、運用人員の確保、セキュリティ環境構築、利用開始という手順を踏んできた。だが、Kintoneでは、cybozu.comにログインして、そこからドラッグ&ドロップで必要な項目を追加するだけで10分後にはシステムが稼働する。また、不要になったらすぐにやめればいい。さらに、Kintoneは1ユーザーあたり月額880円で利用できる。これはセールスフォース・ドットコムのForce.comよりもはるかに低価格であり、使えるディスク容量も大きい。最先端のテクノロジーを使っているからこそ、先行する企業よりも低価格で提供できる。既存のシステム構築では、長い期間をかけて、多くの投資を行うため、使いにくくてもすぐにやめることができず、使い続けなくてはならない。クラウドはそうした課題も解決できる」とする。
そして、クラウド時代の到来は、産業そのものにいくつかの大きな変化をもたらすと青野社長は指摘する。
たとえば、システムインテグレーター(SIer)は、ハードウェアやOS、プログラミングの知識が不要になり、業務知識が求められるようになること。さらには、クラウド環境では地方からのビジネスも可能になるため、地方の中小SIerが台頭する可能性があること。また、システム構築の単価が大幅に下落し、システム構築の計算が月や日から時間単位になり、いままで価格が折り合わせなかった案件でも採算がとれるようになること。売り切り型からサービス型モデルへの展開が進むことなどだ。
同社では、cybozu.comプラットフォーム上で提供するアプリケーションを販売するために、ITの専門知識を持たないような異業種企業が参加する「cybozu.comフレンド」と呼ぶ販売パートナー制度をスタートさせる考えだが、これもクラウド時代の新たな変化を捉えた施策のひとつだといえる。
サイボウズによると、2011年11月にcybozu.comの提供を開始してから、約3カ月の累計契約数は500社を突破。そのうち約9割がこれまでサイボウズ製品を使ったことがない新規ユーザーだという。
「オンプレミス環境からの移行ツールの提供を開始しており、今後、既存ユーザーのクラウドへの移行が始まることになる」とするほか、「今年から米国市場向けにも再度挑戦をしたいと考えているが、現地において開発およびサポート/サポートの体制構築が最低限で済むクラウドによる展開は、効率よく海外で勝負できることにもつながる」と語る。